創作童話「スピスピ、親子対面」
大好評、創作童話の第9弾、前回の続きです。
5億年前に生きていた古代魚、サカバンバスピスの女の子が、大地震で生じた時空の裂け目を通って現代の大和郡山市に姿を現しました。
その女の子は、用水路で暮らす金魚の5兄弟、金太郎くんたちと出会い、仲良く暮らしていました。
しかし、両親とも離れ離れになって、5億年も後の時代にたった1人で迷い込んだ寂しさや不安感は拭いようもありませんでした。
ちょうどその頃、琵琶湖のほとりを歩いていたうさぎのぴょん太くんは、波のまにまに魚のひれのようなものが動いているのを見つけました。
「あれ? あれはワニくん(サメ)じゃないかなぁ。
でも、因幡の沖合いあたりにいるはずのワニくんが琵琶湖にいるというのも変だなぁ。
ま、呼んでみよう」
「おーい、ワニくん? ワニくんにしちゃ、ちょっと太ったかい?」
「呼んだかい? 太ったのは、ここの魚が美味しいからだよ」
その魚はこちらに向かって泳いできました。
顔がワニくんとは違うようです。
「あれ? 顔の両側にあったはずの目が、前に来ちゃってるね」
「ああ。君の顔がよく見えるようにね」
「鋭い歯が生えていた大きな口も、小さくなっちゃったね」
「ああ。君を怖がらせたくないからね」
そこに、もう1匹、似たような魚が泳いできました。
「あんた! 何を赤ずきんちゃんの狼のマネなんかしてるのさ」
「あ。ちょっと乗ってしまって」
「ワニくんじゃなかったんだ。おふたりご夫婦? 失礼ながら、初めて見るお顔だけど」
「あ、はじめまして。
僕たちは海で暮らしていたんだけど、大地震が起きて、海が裂けて、こんな全く知らないところに来てしまっていたんだ。
娘とも生き別れになってしまって」
「へー。不思議な話だね。
あ、向こうからやってくるのは、かえるのけろきちくんじゃないか。
彼は物知りだから、何か分かるかもしれないよ。たにぐくのさ渡る極みだからね。
おーい! けろきちくん」
やってきたけろきちくんに、ぴょん太くんは今聞いた話をしました。
「何だって! 同じような話をしばらく前に聞いたよ。
おさかなさん達は、5億年前の古代魚、サカバンバスピスです。
娘さんらしき子にも、大和郡山市の用水路で遭いました。
元気でしたよ」
「なんと! なんと! それは嬉しいこと。今すぐにでも会いに行きたいです」
「う~ん。ここからだと、瀬田川を通って、いったん大阪湾に出て、そこから大和川を逆上る感じかなぁ。
ちょっと大変。むしろ、娘さんにこっちに来てもらう方が早いかも。
ちょうど、空飛ぶぐんまちゃんに会ったところなんで、彼に連れてきてもらうのが早そうですよ」
「えー。ぐんまちゃん、こっちに来てるの?」
「うん。学会発表だって」
「え! ぐんまちゃんが発表したの?」
「そうなんだ。ぐんまちゃんすごいよ」
「邪馬台国は群馬にあったとか。そういう内容?」
「ううん。大昔に今の滋賀県の地下が大爆発を起こして、その岩盤や土砂などがそっくり飛んで行って淡路島になった。
その跡地には水が溜まって琵琶湖になった、っていう発表」
「それは壮大だねぇ」
「うん。琵琶湖と淡路島の形と大きさが、偶然とは思えないほど似ているからって」
「あ。ぐんまちゃん、来てくれた。じゃぁ、お願いね」
という次第で、ぐんまちゃんがひとっ飛びして、スピスピを連れてきてくれました。
そして、めでたく、親子対面。
「おお! 元気そうで良かった」
「わー! お父さん、お母さん。会いたかったよ」
「これで、また3人で暮らせるね。
これも皆さんたちのお陰です。
特に、ぐんまさんありがとうございました」
「いえいえ。あ、ぼく、ぐんまちゃん。ぐんまさんじゃないので、そこんとこよろしく」
5億年の時空を超えて、親子の対面が叶い、何よりでした。
ただ、大和郡山では、後に残った金太郎くんが寂しい思いをしていました。
「折角仲良しになれたのに、寂しいね」
「うん。寂しい。でも、仕方ないよね」
「仕方ないね」
「そうだ、今度会いに行こうか」
「そうだね。遠いみたいだけど、いつかきっとね」
« 「リボンの騎士」第1話の台本 | トップページ | 山茶花開花&蝶 »
「創作童話」カテゴリの記事
- 創作童話「どぐうくん、はにわくん、そして」(2024.07.21)
- 創作童話「上に候ふ御猫は」(2024.03.17)
- 創作童話「雛人形」(2024.03.03)
- 創作童話「タケミカヅチ異聞」(2024.02.11)
- NHK「鶴瓶の家族に乾杯」に淡路の線香(2024.01.16)
コメント