壬申の乱の経緯を追って22 大友皇子の最期
7月23日、村国男依らは、近江の将犬養五十君と谷塩手とを粟津市で斬刑に処します。
このうち犬養五十君は、かつて倭の中ツ道の戦いの司令官として登場していました。
その後、倭から駆逐されても逃走せずに最後まで淡海方として戦ったのでしょう。
大友皇子は逃走する地もなく、瀬田から引き返して山前(やまさき)に隠れ、自ら首を縊って自決します。
その時、左右大臣をはじめとする群臣たちは逃亡してしまい、皇子に最後まで従ったのは物部麻呂と一両人の舎人のみでした。
さてここで、大友皇子が自縊したという山前の所在がはっきりしません。
新編全集の日本書紀の注には5説上がっています。
①三井寺背後の長等の山前
②河内国茨田郡三矢村山崎
③河内国交野郡郡門の山崎
④山城国乙訓郡大山崎村の山崎
⑤山崎は固有の地名でなく、普通名詞で大津京付近の地
そして、「①説が有力だが、⑤説を採りたい。」としています。
いかがでしょうか。
日本書紀には、「乃ち還りて山前に隠れ、自ら縊れぬ(乃還隠山前、以自縊焉。)」とあります。
大友皇子は大津京から瀬田川の戦いに出馬して敗退します。「還」る先は大津京以外にはないでしょう。
そう考えれば、皇子は大津京目指して落ちて行く途中、①の山前で自尽したか、あるいは大津京に帰り着いたものの、もはやこれまでと思って⑤の地で自尽したかということになるのではないでしょうか。
そのいずれであるかについては①が良いと考えます。
⑤説には山前を普通名詞とする点に無理があるという理由からです。
②~④の山前は離れすぎていて「還」るという記述に合わないと考えます。
また、瀬田・大津付近でないとしたら、日本書紀編者は単に「山前」とは書かずに、「茨田郡の山前」とか「乙訓郡の山前」と書いたのではないでしょうか。そうでないと、どこの山前やら限定できません。
日本書紀に「山前」はもう1ヶ所登場します。
昨日書いた、倭の三道を北上してきた部隊が到達した山前です。
2つの山前は同じ場所であるのか、それとも異なる場所であるのか。
同じ壬申紀に「山前」と出てくる以上は同じ山前とする方が考えやすくはあります。
しかし、こちらの山前は書紀本文には「山前に至りて、河の南に屯(いは)む。(至于山前、屯河南。)」とあります。
この河はどこの河なのか。
もしも、こちらの山前も①または⑤の山前であるとすると、「河」は瀬田川でしょうか。
しかし、瀬田川の南というと、そこはもう山前ではありません。倭から北上した部隊が山前まで到達しながら、一旦兵を引いて、瀬田川の南に布陣したというのもおかしなことです。
①または⑤の山前まで到達しているのならば、淡海軍を挟み撃ちにできます。
④の大山崎(後世、秀吉と光秀との間で山崎の合戦が行われた地)も、河の南というと淀川の南ということになります。
淀川を越えて山前まで達しながら、また河を渡って淀川の南に布陣したということになります。
②③の山前ならば、淀川の南ですから、これならば淀川の南の山前に到達し、そこに布陣したということでよく分かります。
地図にもう1ヶ所「枚方市楠葉」と記したのは、新編全集で倭からの北上軍が布陣した方の山前の候補地として追加してある地点です。
こちらも淀川の南です。
ということで、大友皇子が自ら命を絶ったのは長等の山前、倭から三道を北上してきた部隊が布陣したのは淀川の南の枚方、茨田、交野のいずれかの山前と考えます。
ただ、あまりすっきりはしません。日本書紀の本文では、後者の山前がいずれの地であるのか文脈からは全く限定できないからです。
それに、同じ壬申紀の乱の終焉付近に登場する2つの山前が別の場所だなどということが、果してあろうかという大きな疑問が消えません。
更に考えてみます。
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そういえば…ずっと、ただ漠然と大津京の何処かぐらいに考えていました。
でも、考えてみたら「ヤマサキ」って地名は色々とその可能性がある地名ですからねえ。
投稿: 三友亭主人 | 2023年7月23日 (日) 09時40分
三友亭主人さん
コメントをありがとうございます。
大友皇子の終焉の地はどこの山前なのでしょうかねぇ。
上に書いたように大津京付近の可能性が高いと思うのですが、倭の三道を北上してきた部隊が布陣した山前と関連させて考えると、なかなか一筋縄では行かないように思います。
投稿: 玉村の源さん | 2023年7月23日 (日) 18時07分