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2023年3月19日 (日)

万葉かるた(古都の会)

 こういう万葉かるたを入手しました。
Manyocard04
 枚数は読み札・取り札ともに100枚です。

 そのうち任意の6枚です。
Manyocard05

 解説書が付いていて、1首につき1ページを宛てて、口訳とともに歌の解説と作者の解説が書かれています。
Manyocard06

 製作されたのは昭和59年で、中西進氏の監修、近藤信義氏の訳・解説です。
Manyocard07

 採り上げられている100首は以下の通りです。

 ・たまきはる宇智の大野に馬並めて朝踏ますらむその草深野(1-4)中皇命
 ・熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな(1-8)額田王
 ・あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る(1-20)額田王
 ・紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも(1-21)天武天皇
 ・春過ぎて夏来るらし白栲の衣干したり天の香具山(1-28)持統天皇
 ・楽浪の志賀の大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも(1-31)柿本人麻呂
 ・東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ(1-48)柿本人麻呂
 ・采女の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く(1-51)志貴皇子
 ・引間野ににほふ榛原入り乱れ衣にほはせ旅のしるしに(1-57)長意吉麻呂
 ・君が行き日長くなりぬ山尋ね迎へか行かむ待ちにか待たむ(2-85)磐姫皇后
 ・秋山の木の下隠り行く水の我れこそ益さめ御思ひよりは(2-92)鏡王女
 ・我はもや安見児得たり皆人の得かてにすといふ安見児得たり(2-95)藤原鎌足
 ・我が背子を大和へ遣るとさ夜更けて暁露に我れ立ち濡れし(2-105)大伯皇女
 ・あしひきの山のしづくに妹待つとわれ立ち濡れぬ山のしづくに(2-107)大津皇子
 ・吾を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくに成らましものを(2-108)石川郎女
 ・いにしへに恋ふる鳥かも弓絃葉の御井の上より鳴き渡り行く(2-111)弓削皇子
 ・人言を繁み言痛み己が世に未だ渡らぬ朝川渡る(2-116)但馬皇女
 ・ますらをや片恋せむと嘆けども醜のますらをなほ恋ひにけり(2-117)舎人皇子
 ・たけばぬれたかねば長き妹が髪このころ見ぬに掻き入れつらむか(2-123)三方沙弥
 ・人は皆今は長しとたけと言へど君が見し髪乱れたりとも(2-124)園生羽女
 ・岩代の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまた帰り見む(2-141)有間皇子
 ・家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る(2-142)有間皇子
 ・山吹の立ちよそひたる山清水汲みに行かめど道の知らなく(2-158)高市皇子
 ・磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど見すべき君が在りと言はなくに(2-166)大伯皇女
 ・降る雪はあはにな降りそ吉隠の猪養の岡の寒からまくに(2-203)穂積皇子
 ・鴨山の岩根しまける我れをかも知らにと妹が待ちつつあるらむ(2-223)柿本人麻呂
 ・今日今日と我が待つ君は石川の峽に交りてありといはずやも(2-224)依羅娘子
 ・天離る夷の長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ(3-255)柿本人麻呂
 ・近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ(3-266)柿本人麻呂
 ・旅にしてもの恋しきに山下の赤のそほ船沖を漕ぐ見ゆ(3-270)高市黒人
 ・桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟潮干にけらし鶴鳴き渡る(3-271)高市黒人
 ・あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり(3-328)小野老
 ・憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も我を待つらむぞ(3-337)山上憶良
 ・家にあらば妹が手まかむ草枕旅に臥やせるこの旅人あはれ(3-415)聖徳太子
 ・百伝ふ磐余の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ(3-416)大津皇子
 ・君待つと我が恋ひ居れば我が宿の簾動かし秋の風吹く(4-488)額田王
 ・み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へど直に逢はぬかも(4-496)柿本人麻呂
 ・君に恋ひ甚も術なみ平山の小松が下に立ち嘆くかも(4-593)笠女郎
 ・目には見て手には取らえぬ月の内の楓のごとき妹をいかにせむ(4-632)湯原王
 ・恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽してよ長くと思はば(4-661)大伴坂上郎女
 ・夕闇は道たづたづし月待ちていませ我が背子その間にも見む(4-709)豊前国の娘子大宅女
 ・妹が見し楝の花は散りぬべしわが泣く涙いまだ干なくに(5-798)山上憶良
 ・銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも(5-803)山上憶良
 ・遠つ人松浦佐用姫夫恋に領巾振りしより負へる山の名(5-871)作者不明 
 ・若ければ道行き知らじ賄はせむ黄泉の使負ひて通らせ(5-905)山上憶良
 ・若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る(6-919)山部赤人
 ・ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く(6-925)山部赤人
 ・海人娘女棚なし小舟漕ぎ出らし旅の宿りに楫の音聞こゆ(6-930)笠金村
 ・湯の原に鳴く葦鶴は我がごとく妹に恋ふれや時わかず鳴く(6-961)大伴旅人
 ・振り放けて三日月見れば一目見し人の眉引き思ほゆるかも(6-994)大伴家持
 ・山越えて遠津の浜の岩つつじ我が来るまでにふふみてあり待て(7-1188)作者不明
 ・人ならば母が愛子そあさもよし紀伊の川の辺の妹と背の山(7-1209)作者不明
 ・福のいかなる人か黒髪の白くなるまで妹が声を聞く(7-1411)作者不明
 ・名児の海を朝漕ぎ来れば海中に鹿子ぞ鳴くなるあはれその鹿子(7-1417)作者不明
 ・石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも(8-1418)志貴皇子
 ・春の野にすみれ採みにと来しわれそ野をなつかしみ一夜寝にける(8-1424)山部赤人
 ・秋萩の散りの乱ひに呼びたてて鳴くなる鹿の声の遥けさ(8-1550)湯原王
 ・沫雪のほどろほどろに降りしけば奈良の都し思ほゆるかも(8-1639)大伴旅人
 ・山高み白木綿花に落ちたぎつ夏身の川門見れど飽かぬかも(9-1736)大倭
 ・旅人の宿りせむ野に霜降らば我が子羽ぐくめ天の鶴群(9-1791)遣唐使の母
 ・勝鹿の真間の井見れば立ち平し水汲ましけむ手児名し思ほゆ(9-1808)高橋虫麻呂
 ・藤波の散らまく惜しみ霍公鳥今城の岡を鳴きて越ゆなり(10-1944)作者不明
 ・風に散る花橘を袖に受けて君がみ跡と偲ひつるかも(10-1966)作者不明
 ・天の川楫の音聞こゆ彦星と織女と今夜逢ふらしも(10-2029)柿本人麻呂歌集
 ・たらちねの母が手放れ斯くばかり為方なき事はいまだ為なくに(11-2368)柿本人麻呂歌集
 ・朝寝髪我は梳らじうるはしき君が手枕触れてしものを(11-2578)作者不明
 ・難波人葦火焚く屋のすしてあれど己が妻こそ常めづらしき(11-2651)作者不明
 ・泊瀬川早み早瀬をむすび上げて飽かずや妹と問ひし君はも(11-2706)作者不明
 ・葦垣の中の和草にこやかに我れと笑まして人に知らゆな(11-2762)作者不明
 ・朝影に我が身はなりぬ玉かぎるほのかに見えて去にし子ゆゑに(12-3085)作者不明
 ・紫は灰さすものそ海石榴市の八十の衢に逢へる子や誰(12-3101)作者不明
 ・たらちねの母が呼ぶ名を申さめど道行く人を誰れと知りてか(12-3102)作者不明
 ・磯城島の大和の国に人二人ありとし思はば何か嘆かむ(13-3249)作者不明
 ・馬買はば妹歩行ならむよしゑやし石は履むとも吾は二人行かむ(13-3317)作者不明
 ・多摩川に曝す手作さらさらに何そこの児のここだ愛しき(14-3373)武蔵国東歌
 ・にほ鳥の葛飾早稲をにへすともその愛しきを外に立てめやも(14-3386)下総国東歌
 ・信濃なる筑摩の川の細石も君し踏みてば玉と拾はむ(14-3400)信濃国東歌
 ・我が恋はまさかもかなし草枕多胡の入野の奥もかなしも(14-3403)上野国東歌
 ・稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ(14-3459)未勘国東歌
 ・君が行く海辺の宿に霧立たば吾が立ち嘆く息と知りませ(15-3580)遣新羅使人の縁者
 ・家人は帰り早来と伊波比島斎ひ待つらむ旅行く我れを(15-3636)遣新羅使人
 ・草枕旅を苦しみ恋ひ居れば可也の山辺にさを鹿鳴くも(15-3674)壬生宇太麻呂
 ・天離る鄙にも月は照れれども妹ぞ遠くは別れ来にける(15-3698)遣新羅使人
 ・君が行く道のながてを繰り畳ね焼きほろぼさむ天の火もがも(15-3724)狭野弟上娘子
 ・帰りける人来れりといひしかばほとほと死にき君かと思ひて(15-3772)狭野弟上娘子
 ・旅にして妹に恋ふれば霍公鳥我が住む里にこよ鳴き渡る(15-3783)中臣宅守
 ・春さらばかざしにせむと我が思ひし桜の花は散りにけるかも(16-3786)壮士某
 ・荒雄らを来むか来じかと飯盛りて門に出で立ち待てど来まさず(16-3861)作者不明
 ・家にてもたゆたふ命波の上に思ひし居れば奥か知らずも(17-3896)大伴旅人の傔従
 ・霍公鳥いとふ時なしあやめぐさかづらにせむ日こゆ鳴き渡れ(18-4035)田辺福麻呂
 ・なでしこが花見るごとに娘子らが笑まひのにほひ思ほゆるかも(18-4114)大伴家持
 ・春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子(19-4139)大伴家持
 ・もののふの八十娘子らが汲み乱ふ寺井の上の堅香子の花(19-4143)大伴家持
 ・藤波の影なす海の底清み沈く石をも玉とぞ我が見る(19-4199)大伴家持
 ・春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影に鴬鳴くも(19-4290)大伴家持
 ・わが妻はいたく恋ひらし飲む水に影さへ見えて世に忘られず(20-4322)若倭部身麻呂/遠江防人
 ・時々の花は咲けども何すれぞ母とふ花の咲き出来ずけむ(20-4323)丈部真麻呂/遠江防人
 ・唐衣裾に取りつき泣く子らを置きてそ来ぬや母なしにして(20-4401)他田舎人大島/信濃防人
 ・草枕旅の丸寝の紐絶えば我が手と付けろこれの針持し(20-4420)椋椅部弟女/武蔵防人妻
 ・新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事(20-4516)大伴家持

 ざっと見ると、著名な歌が採られていて、順当な選歌と思いますが、よくよく見ると、たとえば次のような歌が採られていません。

 ・楽浪の志賀の辛崎幸くあれど大宮人の舟待ちかねつ(1-30)柿本人麻呂
 ・笹の葉はみ山もさやにさやげども我れは妹思ふ別れ来ぬれば(2-133)柿本人麻呂
 ・田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける(3-318)山部赤人
 ・み吉野の象山の際の木末にはここだも騒く鳥の声かも(6-924)山部赤人
 ・我が宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも(19-4291)大伴家持
 ・うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独し思へば(19-4292)大伴家持

 このうち最後の2首は家持の春愁三首のうちの2首です。春愁三首のうち1首だけ採ったということで理解できますが、3首目の赤人の富士山の歌などはなぜ落としたのか不思議です。
 ま、いいのです。選者によって考え方には個人差がありますので、みんな同じではつまりません。
 その一方で、主に作者不明の歌の中にあまり有名でない歌が何首か採られています。そのあたりもこのかるたの個性と思います。

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