明治6年の『単語篇』(新潟の教科書)(4)新潟方言2
当ブログで3回掲載してきた明治6年の『単語篇』の続きです。
この本について、まほろばメイトの「源さんの後輩」さんから、「『単語篇』の“日本地図”一「単語篇』(明治5年)の出版バリエーションー」(大橋敦夫『上田女子短期大学紀要』第三十三号。2010年1月)という論文をご教示頂きました。
https://core.ac.uk/download/pdf/235102862.pdf
ありがとうございました。とても参考になりました。
その論文によれば、『単語篇』は明治5年に文部省によって作成され、それを見本本として、各府県ごとに印刷出版されたのだそうです。
各府県ごとに印刷出版した理由は、当時、用紙の調達の問題や、木製の版下での印刷によることから、一か所での大量印刷は物理的に不可能であったからだそうです。
この方針は、各府県による創意工夫の余地を生み、文部省の提示した内容とは、若干あるいはかなり異なる異版が生み出されるに至ったとのことです。
実際に、国会図書館のデジタルコレクションで様々な『単語篇』の異本を見ることができます。
今日は、昨日の続きです。
まず、拗音。
他にも、「舅(シュウト→ショト)」「姑(シュウトメ→ショトメ)」「饅頭(マンジュウ→マンジョ)」「升(ショウ→シウ)」などの例があります。
書き込みをした人は、どうも拗音の書き方が確立していないように思われます。
次に、昨日示した以外の母音交替の例。
「タヌキ→タノキ」は「ヌ→ノ」、「ウロコ→ヲロク」は「ウ→ヲ」と「コ→ク」、「ツボミ→ツブミ」は「ボ→ブ」、「ミリン→ミレン」は「リ→レ」ですね。
次は、古語と共通する語形。
「駅(シク)」は「宿(シュク)」でしょうか。
「背(セナ)」は、日国には、林葉和歌集〔1178〕、名語記〔1275〕、玉塵抄〔1563〕などの例が挙がっています。
「銀杏(ギンアン)」は、これまた日国には、異制庭訓往来〔14C中〕、天正本節用集〔1590〕、日葡辞書〔1603~04〕などの例が挙がっています。
「蝸牛(タイラウ)」はこのグループではないかもしれません。カタツムリのことですね。
柳田国男の『蝸牛考』という著書もありますように、多くの方言形のある語です。
『日本方言大辞典』には、「タイロウ」に似たカタツムリの意味の語形に次のようなものがありました。
だいろ:山形県米沢市、福島県、栃木県、埼玉県、新潟県、富山県、長野県、三重県桑名、兵庫県出石郡
だいろー:信濃下水内郡、福島県岩瀬郡、群馬県多野郡、埼玉県入間郡、秩父郡、新潟県、山梨県
でーろ:信濃、福島県、栃木県、埼玉県秩父郡、新潟県中頸城郡、長野県
いずれにも新潟県が含まれていて、参考になります。
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コメント
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いやあ、研究が進んでいますねえ。
いつもながら源さんの探求心には…( ゚Д゚)…です。(顔文字は「ビックリ」のつもりです)
書き入れられた内容は、持ち主だった方が先生が示してくださった読みをそのまま書き取ったのでしょうから、その先生の発音ということになるのでしょうが、それをいわゆる標準語の発音の表記に改めずに書いたということは、書き取った側はそれが正しい発音として受け取ったのでしょうね。
…標準語普及の状況をも示しているのでしょうか?
投稿: 三友亭主人 | 2021年5月 8日 (土) 11時33分
三友亭主人さん
コメントをありがとうございます。
どうも、よく言えば探究心といいますか、知的好奇心といいますか。
悪く言えば野次馬根性といいますか。(^_^)
ただ、研究ではなく、趣味の世界ですので、ある程度まで分かると、最後まで極めることをせず、そこでやめてしまう傾向があります。中途半端です。
ルビについては、三友亭主人さんのお考えの通りと思います。
「土」なんていう漢字は画数も少ないし、簡単な漢字でしょうが、それにルビを付けているということは、こんな漢字も知らないということになりましょうね。そして、この漢字には「ツチ」ではなく、「チチ」と振っている。本人は聴いたままを書いたのでしょうね。
それでいて、ルビのカタカナは書き慣れているといいますか、細字で端正に書かれていて、6歳くらいの子供の書いたものとは思えません。このギャップが謎です。
あるいは、この教科書は、学制発布の翌年という時期に刊行されたものですので、当時は定められた学齢期の子供以外に、教育を受ける機会のなかった大人に近いような年齢の者も学校で学んでいたとか。そんなことも考えました。
投稿: 玉村の源さん | 2021年5月 8日 (土) 15時35分