明治6年の『単語篇』(新潟の教科書)(3)新潟方言
2回ご紹介した『単語篇』(明治6年)には、持ち主による書き込みがあります。
持ち主については、昨日書きましたように、最低3人の手を渡ったようで、伊佐早寛一さん、高橋福**さん、高橋国蔵さんのいずれであったのかは分かりません。いずれであっても、現在の新潟県南魚沼市の方言が反映しているものと思われます。
母音交替形の例が多く、5月3日にも書きましたように、「エ→イ」「ユ→ヨ」「ヒ→ヘ」の型が多いです。
「エ→イ」の例は以下の通りです。
これに加えて、5月3日にご紹介した「萌黄(モエギ→ムイギ)」の他に、「杖(ツエ→ツイ)」「蝿(ハエ→ハイ)」「笛(フエ→フイ)」「衫(ヒトエモノ→ヒトイモノ)」「羽二重(ハブタエ→ハブタイ)」がありました。
「ユ→ヨ」の例は以下の通りです。
このうち、「指(ヨビ)」については、伊勢物語に「および」の例があり、「眉(マヨ)」については、正倉院文書や万葉集に例があります。
上の例に加えて、5月3日にご紹介した「雪(ユキ→ヨキ)」の他に、「湯(ユ→ヨ)」「夕(ユウ→ヨウ)」「弓(ユミ→ヨミ)」「湯殿(ユドノ→ヨドノ)」「夕立(ユウダチ→ヨダヂ)」「繭紬(マユツムギ→マヨツムギ)」「醤油(ショウユ→シャウヨ)」「朋友(ホウユウ→ホウヨ)」がありました。
「繭(マヨ)」は常陸国東歌に例があります。
「ユ→ヨ」のパターンは古語でもある様です。
「ヒ→ヘ」の例は以下の通りです。
「稗(ヒエ→ヘイ)」では、ヒ→ヘの他に、エ→イという変化もあります。同じく、「蛭(ヒル→ヘリ)」では、ヒ→ヘの他に、ル→リという変化もあります。
上の例に加えて、5月3日にご紹介した「菱(ヒシ→ヘシ)」の他に、「平屋(ヒラヤ→ヘラヤ)」がありました。
新潟ではイとエの区別が曖昧と伺ったことがありますが、この本の書き込みで見る限りは、エ→イは多数あっても、イ→エは見つかりませんでした。
また、エ→イはe→iという変化ですが、ハ行では、ヒ→ヘですのでi→eという逆の変化になっています。
あれこれ興味深いです。
現代との比較はどうなのか、関心があります。
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