明治6年の『単語篇』(新潟の教科書)(1)
このようなものを手に入れました。
表紙裏の見開き。
明治6年刊行の木版本です。
「新潟県下小学所用」とあります。
「所用」ではなく、「小学所」と思われます。
前年の明治5年に学制発布があり、「小学校」という名称ができていますので、「小学所」はやや不審ではありますが。
ひらがなの「いろは」から始まっています。字体は「お」と「え」が異なるだけで、現行と同じです。
「お」も元になった仮名字母は現行のものと同じです。
次のページは、カタカナで「アイウエオ」順です。
こちらも字体は現行のカタカナと同じです。
このあと、動詞の活用表があり、その後に本編に当たる「単語篇」になります。
単語篇は、「数」から始まり、「方(方角)」「形」「色」「度」「量」「衡」「貨」「田尺」「時」「天文」「地理」……と続きます。
結構難しい漢字もあります。現在の教育漢字の学年配当は、社会における使用頻度よりも、画数の多少などの方が優先されているように思いますが、この明治の教科書では、社会の中での使用頻度の方が優先されているように思います。
興味深くページをめくっているうちに、「はて?」という箇所に出会いました。
「菱」に「ヘシ」というルビがついています。
ルビは印刷されたものではなく、あとから手書きされたものです。
これ、もしかしたら、方言かもしれないと思い付きました。
冒頭からの数ページに、次のようなものがありました。
ヒシ→ヘシ、モエギ→ムイギ、ユキ→ヨキ、ツチ→チチ、ですね。
この中で、「雪」については、万葉集の上野国東歌に「伊香保の嶺ろに降ろ雪(よき)の」(3423番歌)という例があります。
新潟と群馬はお隣同士なので、方言にも共通する部分があるのでしょう。
面白いです。この本のルビは、明治初期の新潟方言ということになりそうです。
裏表紙の裏に次のような書き込みがあります。
清長寺村の高橋国蔵さんが、この本の持ち主なのでしょう。
清長寺村は、ググっても見つかりませんでしたが、新潟県南魚沼市に清長寺というお寺が見つかりました。その寺ゆかりの村なのかもしれません。
この本、いろいろ興味深いので、このあと、何度か取り上げるつもりです。
方言形も、あらためてまとめてみます。
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面白い資料ですね。
読んでくださった先生の発音をそのまま書き取ったのでしょうか。
こんな資料がいくつも出てきたら面白いいこと考えられるんでしょうが…・
>ヒシ→ヘシ、モエギ→ムイギ、ユキ→ヨキ、ツチ→チチ
これを私が育ったころの宮城の発音で行くと…
ヒシ→ヒス、モエギ→モエジ(「ジ」は「ギ」と「ジ」の間のような発音)、ユキ→ユジ(「ジ」は前に同じ)
ツチ→ツヅ(「ヅ」はやや「ヂ」よりの発音)
とでもなるのでしょうか。ちなみに濁音は鼻濁音になることがほとんどでしたね。
投稿: 三友亭主人 | 2021年5月 4日 (火) 07時55分
三友亭主人さん
コメントをありがとうございます。
また、お国言葉での発音をお示し頂き、ありがとうございます。
本当に珍しいものを入手しました。
入手先はまた例によってネットオークションなのですが、入札したときはこのような書き込みがあるとはつゆ知らず。
儲けものでした。(^_^)
同時代の各地の同様の資料が出てきたら面白いですね。
投稿: 玉村の源さん | 2021年5月 4日 (火) 14時16分