鎮花祭の祝詞&「うづなふ」
恥ずかしながら、今まで鎮花祭のことは何も知りませんでしたので、昨日の大神神社の鎮花祭のニュースで、大いに関心を持ちました。
鎮花祭でも当然祝詞が奏上されたことでしょうが、延喜式には鎮花祭の祝詞は載っていません。
ググってみたら、国会図書館のデジタルコレクションに『祭之墨縄』(三宅古城編)という書籍があり、そこに鎮花祭の祝詞が載っていました。明治19年のものです。もっと探せば、もっと古いものが見つかるかもしれません。
勝手に貼って良いかどうか分かりませんが、貼ってしまいます。
実際にはページをまたがっているのですが、切り貼りしました。
漢字かな交じりにするとこのようになります。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
此(これ)の某郷村の某社と称辞(たたへごと)竟(をへ)奉る、挂将(かけまく)も惶(かしこ)き、我大神の大前に官姓名謹み敬ひ惶み惶みも頸根(うなね)衝抜(つきぬき)て申さく。
梓弓春の季(すえ)つ方、桜の花の散ばふ時に、疫神も比(たぐ)ひ散て、世間に疫病の流行(はやる)と云ふ事も、其を鎮め遏(とどむ)る御祭の事も、大宝の御令に載られたれば、当時(そのかみ)既に天の朝(みかど)にして、其御祭を、厳かに奉仕(つかへまつり)給ひけむ事は、云むも勿論(さら)在(なる)事になも、故是を以て、惶けれども其御式(みのり)に奉慣(ならひまつり)て、何時は雖有(あれど)、桜の花の散に比(たぐ)ひて、疫病さへ散ばふと云ふ時を時と為て、大前に、大御饌大造り修め繕ひ奉りしが故に、元の如くに還し奉り、鎮め奉る事を御心和やかに聞(きこ)し食(め)し諾(うづ)なひ給へと、恐み恐みも白す。-----------------------------------------------------------------------------------------------
ここには、漠然と春の花という表現ではなく、はっきりと「桜の花」とあります。桜の花が散るときに、それに連れだって疫病が流行るので、それを鎮め留めると言っています。
これはどういう発想なのでしょうかね。
桜の花を良いもの、霊力のあるものと考え、それが散ってしまうと悪いことが起きる、疫病も流行る、ということでしょうか。
冷暖房が脆弱だった古代においては、湿度の高い梅雨時や、高温・低温の真夏や真冬に病気になる人が多かったと思いますが。
言葉の上では、終わり近くに「うづなひ」とあるのに興味を惹かれました。
「諾」は普通「うべなふ」と読む文字ですが、「うづなひ」と読んでいます。
日国で「うずなう」にはこうあります。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
うずな・う[うづなふ]〔他ハ四〕
良しとする。良しとして大切に思う。うずのう。
*続日本紀‐和銅元年〔708〕正月一一日・宣命「此の物は天(あめ)に坐(ま)す神、地(くに)に坐す祇(かみ)の相于豆奈比(ウヅナヒ)奉り福(さき)はへ奉る事に依りて」
*万葉集〔8C後〕一八・四〇九四「天地(あめつち)の 神あひ宇豆奈比(ウヅナヒ) 皇御祖(すめろき)の 御霊(みたま)たすけて〈大伴家持〉」
-----------------------------------------------------------------------------------------------
続日本紀宣命の例は秩父から銅が見つかった折の宣命で、万葉集の例は陸奥国から黄金が出たのを受けての家持の歌です。
宣命には全部で5例あり、すべて「あひうづなひまつる」という形で、定型化しています。
万葉集には「うづなふ」の例は家持のこの1例のみです。
祝詞には「うづのふ」という語形で大嘗祭の祝詞に用いられています。
どうやら「うづなふ」「うづのふ」は祝詞・宣命に特有の用語のようです。
『祭之墨縄』は明治19年のものですが、そこに載っている鎮花祭の祝詞は、それなりに古いものではないかと思います。
« 大神神社で鎮花祭 | トップページ | まだ芽が出ない »
「文字・言語」カテゴリの記事
- 明治26年の『赤穂義士真筆帖』(2)(2024.09.16)
- 明治26年の『赤穂義士真筆帖』(2024.09.11)
- 「新(しん)じいらんど」(2024.09.07)
- 明治3年の『絵入智慧の環 二編上』(4)(2024.09.06)
- ウオルト・デズニイの『ぴいたあ・ぱん』(2024.08.26)
「健康・病気」カテゴリの記事
- インフルエンザの予防接種(R06)(2024.10.05)
- 体重変化(R5.3~R6.9)(2024.10.01)
- 体重変化(R5.2~R6.8)&シャインマスカット(2024.09.01)
- 体重変化(R5.1~R6.7)&うさぎカレンダー(2024.08.01)
- 体重変化(R4.12~R6.6)(2024.07.01)
「民俗・宗教」カテゴリの記事
- 宮川禎一氏『鳥獣戯画のヒミツ』(淡交社)(2024.09.21)
- 大人の図鑑シール(仏像)(2024.09.20)
- 『ならら』最新号の特集は「超 国宝」(2024.08.31)
- 昭和12年頃の善光寺鳥瞰図(2024.08.29)
- 「日本全国郷土玩具かるた」(2024.05.14)
私はところがら結構祝詞奏上を聞く機会が多くって(それも大神神社で)・・・なんてたって、この3月まで大神神社の末社の神社役員を務めてましたから…
でも、この鎮花鎮のやつは聞いたことがありませんね。
>桜の花が散るときに、それに連れだって疫病が流行るので、それを鎮め留めると言っています
桜の花が散るとき…って発想はいつのころからのものなんでしょうねえ。
少なくとも城代には見られないような気はするのですが…
投稿: 三友亭主人 | 2021年4月19日 (月) 22時01分
三友亭主人さん
コメントをありがとうございます。
大神神社の地元にお住まいですものね。末社の役員さんも勤めておいででしたか。
その三友亭主人さんがお聴きになっていらっしゃらないのですか。
鎮花祭をしているのですから、その折に何らかの祝詞は奏上していると思うのですが、別の内容なのでしょうか。
花が散ることに関しては、令義解に「在春花飛散之時。度疫神分散而行癘。」とありますので、「春の花が散る時」ということであれば、平安初期からあることになりますが、それが桜の花に限定された時期、ということですよね。
いつ頃からでしょうかねぇ。
投稿: 玉村の源さん | 2021年4月19日 (月) 22時15分