明治10年の『新撰年代記』(5)「ティ」「ヴ」の表記
何度か取り上げている明治10年の『新撰年代記』、本体は年表なのですが、付録が豊富です。
アルファベットの一覧も載っています。
これは、文政五年の年代記には載っていません。やはり文明開化の時代です。
活字体。
標題は「英国(イギリス)羅馬(ラウマ)軆」とあります。
「アルファベット」という言葉は使われていません。
「ローマ」が「ラウマ」となっていますね。歴史的仮名遣いということになりましょうか。
筆記体。
標題は「同草躰」となっています。
「筆記体」ではなく「草体」ですね。興味深いです。
日本国語大辞典には「そう‐たい[サウ‥] 【草体】〔名〕書道で、草書の書体。」とあるばかりで、アルファベットの筆記体の意味は挙がっていません。
「筆記体」という語に興味を覚えて、また日国を引いてみたら、載っていた用例が五木寛之の『さらばモスクワ愚連隊』〔1966〕でした。
そんな新しい用例しかないの? と思いました。私が中学生の時、英語の授業で普通に出てきました。1966年というと、ちょうど同じ頃ですけど。
「日国友の会」というサイトがあります。
https://japanknowledge.com/tomonokai/
このサイトに「「日国友の会」とは」という項目があり、こうあります。
>『日国友の会』では、日本国語大辞典第三版へ向け、未収録の用例・新項目を広く皆さまより募集しています。
>現行の例文より古い例などがありましたら、ぜひご投稿ください。
そこに「筆記体」のより古い例が投稿されていました。
投稿者は末広鉄男氏で、『造本と印刷』(1948年 山岡謹七)です。戦後すぐの用例ですね。それにしても意外と新しい気がします。
それぞれの文字には片仮名で読みが付いていますね。
今と同じ音もありますけど、「C スィー」「J ゼイ」「W ドブルユー」「Z ズイー」など、異なるものもあります。
「スィー」で、「セクスィー部長」を思い出しました。
あれこれ興味深いです。
などと思っていたのですが、数日経ってから、いやいや注目すべきはむしろ「D ディー」「T ティー」「V ヴィー」ではないかと思い至りました。
これらは今と同じ表記なので、最初は注意を引きませんでしたが、こういう、当時の日本語にはない発音をどう文字化するか。
その結果、小さい「ィ」や長音記号を組み合わせて表記したり、「ウ」に濁点を付けたりして工夫したのですね。
今は見慣れた普通の表記になっていますけど、120年以上も前に、今と全く同じ表記が生み出されているって、すごいことではないかと思えてきました。
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興味深い資料をありがとうございます。
福澤諭吉が幕末の著書に「チーハウス」と書いていたので、この資料のティの表記は(イの小字表記も含め)確かに比較的新しいと思います。
幕末には仏語独語資料も入っていたので、ヴの表記の方がティの表記の確立より少し古いかもしれません。
明治10年だともはや蘭語ではなく、でも米國ではなく英國なんですね。
興味深いです。
投稿: 源さんの後輩 | 2021年2月11日 (木) 18時42分
源さんの後輩さん
コメントをありがとうございます。
御無沙汰しています。
興味を持ってくださってありがとうございます。
私は、この時代の資料については全く知識がなく、資料的価値がさっぱり分からないのですが、でも、素朴に「ティ」「ディ」「ヴ」に大いに興味を持ちました。今普通の表記だけに、なおさら。
確かに「米国」ではなく、「英国」ですね。それも興味深いです。
投稿: 玉村の源さん | 2021年2月11日 (木) 19時01分