「支那暦」という語
ネットオークションで購入しました。
大正15年の暦です。
岐阜県のお店が顧客に配ったもののようです。
注目したのは、上から2段目の左側にある「支那暦」という語です。
初めて見る語でしたので、関心を持ちました。
日国にも立項されていません。
意味としては「旧暦」と同じものとみて良さそうです。
日国には「旧暦」は次のようにあります。
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きゅう‐れき[キウ‥] 【旧暦】〔名〕
(1)古い暦。昔、用いられた暦。
(用例省略)
(2)昨年。旧年。
(用例省略)
(3)明治五年(一八七二)に採用された太陽暦(新暦)に対して、それ以前に用いられた太陰太陽暦をいう。上代の日本には固有の暦法がなく、七世紀、推古天皇のときに、中国の暦法が移入されてこれを遵用して以後、儀鳳暦(ぎほうれき)、大衍暦(たいえんれき)などいくつかの中国暦によった。特に貞観四年(八六二)に採用された宣明暦は八二三年間利用されたが、その誤りを見出した安井算哲(渋川春海)が元の授時暦を日本に適応させた新暦の採用を奏上、貞享元年(一六八四)に採用が決まり、同二年より施行された。以後、宝暦暦、寛政暦、天保暦と修正が加えられた。これらを通称していう。今日では天保暦をさす。……以下略
*改暦の詔‐明治五年〔1872〕一一月九日「太陽暦は〈略〉太陰暦に比すれば、最も精密にして〈略〉依て自今旧暦を廃し、太陽暦を用ひ」
*浮雲〔1887~89〕〈二葉亭四迷〉二・七「暦を繰て見れば、旧暦で菊月初旬(はじめ)といふ十一月二日の事ゆゑ」
*母なるもの〔1969〕〈遠藤周作〉「この島では、カトリック信者が、新暦でクリスマスや復活祭を祝うのにたいし、かくれたちは旧暦でそっと同じ祭を行うのだそうである」
(以下省略)
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太陽暦に対する「旧暦」という語は、明治5年から既に用いられており、『浮雲』などにも使われています。
いわゆる「旧暦」は中国の暦法ですから、その意味で「支那暦」と言ったのでしょうか?
ただ、上の日国にもあるように、江戸時代に日本で改良されたものが使われていたわけですから、あえて「支那暦」と言わなくても良さそうに思います。
当時の中国は中華民国ですね。中華民国でも太陽暦を使っていたと思いますが、もしかしたら民間では旧暦が主に使われていたといった状況があったので、それで、中華民国で使われている暦を「支那暦」と呼んだとか?
ちょっと不思議。
中央部分に顧客宛の「感謝と御願」という挨拶文が載っています。
「何があったのでしょう?」と気になるような文章です。(^_^)
郵便為替と小包の料金表も載っています。
いろいろと便利そうな暦です。
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