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2020年6月14日 (日)

演習の履修生からの質問(2)増訂

 先週の火曜日に、「演習の履修生からの質問(2)」という記事を載せました。
 この日の演習の授業(meetで行っています)の終了後、学生さん達から寄せられたリアクションペーパー代わりのメールに書かれていた質問と、それに対する私の答とを、そこに載せました。

 私の答は、質問に対して折り返し書いて送信したもので、甚だ不十分なものでした。そういう不十分なものを、そのままブログに載せたり、ツイッターにまでリンクしてしまって、世界に発信してしまいました。(^_^;

 おかげ様で、ブログには筒井茂徳先生からご教示をいただき、またツイッターには小松靖彦先生からご教示をいただきました。大変にありがたく存じています。

 質疑応答のうち、もっとも不十分だったのが以下のものです。

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D.仙覚以降、江戸時代になるまでの間は詳しい万葉集研究はされていなかったのでしょうか? 国学者による古典研究がはじまるまでは万葉集の研究がされていなかったのか気になりました。
 平安時代の作品には万葉集を本歌取りした歌もあるようですが、鎌倉以降はあまり歌人の関心は万葉集に寄せられなかったのでしょうか。
 和歌の中での万葉集の立ち位置について少し気になりました。

d.仙覚から江戸時代までの間に、著名な万葉集の注釈書はありませんが、著名でなくても、全くないのかどうか、少し調べてみます。万葉集の書写は行われています。
 古今集以降の勅撰集の中に万葉歌を載せたものがあります。八代集それぞれについて、何首くらい万葉歌が載っているのか、そんなリストがありそうに思います。捜してみます。
 歌によく読まれる地名を「歌枕」と言い、平安末期以来、歌枕集がいくつも作られています。そんな中に、万葉集の歌を引用したものがあり、どのくらいの万葉歌が引用されているのか、そんなあたりも興味深いです。
 基本的には、歌人たちの関心は勅撰集にあり、万葉集にはあまり注意が向かなかったのではないかと思います。
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 どうも、平安・鎌倉以降の万葉集(受容史・享受史・研究史)にはあまり関心がなく、このような回答しか書けなかったことを恥じ入ります。

 小松先生のご教示や、『古文献所収 万葉和歌集成 平安・鎌倉期』(渋谷虎雄。桜楓社。昭和57年)を参照して、このような回答を書いてみました。

d2.『古文献所収 万葉和歌集成 平安・鎌倉期』によれば、八代集に収載されている万葉歌は以下の通りです。

  古今集(905年):17首
  後撰集(958年頃か):25首
  拾遺集(1006年頃):123首
  後拾遺集(1086年):なし
  金葉集(1126年):なし
  詞花集(1151年頃):なし
  千載集(1188年):なし
  新古今集(1205年):63首

 歌集によって差があるのは、それぞれの編纂方針の違いなどによるのでしょう。

 また、同書の中から、多くの万葉歌を収録、引用、注釈している文献を抜き出してみました。歌数は万葉歌の数です。

  古今和歌六帖(私撰集。976以後):1192首
  俊頼髄脳(歌論書。源俊頼。1112年頃):69首
  綺語抄(歌語の注釈書。藤原仲実。1110年前後):492首
  奥義抄(歌学書。藤原清輔。1140年前後):112首
  和歌童蒙抄(歌論書。藤原範兼。1145年頃):445首
  五代集歌枕(歌枕書。藤原範兼。12世紀中頃か):1024首
  和歌初学抄(歌語の注釈書。藤原清輔。12世紀中頃か):124首
  万葉集抄(万葉集の注釈書。藤原盛方か。平安末期):173首
  袖中抄(歌語の注釈書。顕昭。1186年頃):488首
  古来風体抄(歌論書。藤原俊成。1197年初撰、1201年再撰):194首
  和歌色葉(歌論書。上覚。1198年):92首
  万物部類倭歌抄(歌論書。藤原定家。1209年):387首
  定家八代抄(秀歌集。藤原定家。1215年頃):100首
  顕注密勘(古今集の注釈書。藤原定家。1221年):120首
  八雲御抄(歌論書。順徳天皇。1221年以後):95首
  色葉和難集(歌論書。作者不明。1236年頃か):327首
  万葉抄出(秀歌集。藤原定家。1241年以前):151首

 『古今和歌六帖』には万葉歌が1192首収録されています。1192首というと、万葉集全体の1/4にもなりますね。かなりの数です。
 八代集の中で『拾遺集』に一番多くの万葉歌が収録されていること、また『古今和歌六帖』に多くの万葉歌が収録されていることについては、一昨年の万葉古代学シンポジウムで、池原陽斉氏が梨壺の五人による古点の成立が大きな意味を持っているのではないか、との指摘がありました。

 鎌倉時代の仙覚から江戸時代の下河辺長流に至るまでの間に著された万葉集の注釈書には次のようなものがあります。

  由阿『詞林采葉抄』(1366年以前)
  二条良基『万葉詞』(1375年)
  宗祇『万葉集抄』(1482年以前)

 平安時代にはまだ本格的な万葉集の注釈書はないといって良いと思います。ただ、歌論書の中に万葉歌を引いたものがあり、『五代集歌枕』では万葉・古今・後撰・拾遺・後拾遺という5つの歌集から歌枕を拾っていて、万葉集からも1000首以上の歌を収録していますので、万葉集も重んじられています。

 梨壺の五人による古点を承けて万葉集が読みやすくなり、仙覚による本文校訂と注釈の仕事を承けて由阿や二条良基、宗祇に繋がっていったように思います。
Gunmac_stamp02


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コメント

古今和歌六帖・俊頼髄脳・奥義抄・和歌童蒙抄・袖中抄くらいは名前だけ知っていますかねえ・・・
いずれも沢潟先生の注釈に出ていたから、その名前をたまたま目にしただけで、そんな機会が無かったら知らないままでしょうね。

ただ、『詞林采葉抄』と宗祇の『万葉集抄』はなんか調べ物をしているときに手に取った覚えがあります。

でも・・・契沖以前はほぼ視野になかったっていうのが正直なところでしたね。

三友亭主人さん

 コメントをありがとうございます。

 私も全く御同様です。
 自分の授業でも全く触れなかったし。(^_^;
 今回、あの学生から質問がなければ、それっきりのはずでした。

 侮れない4年生です。(^_^)

>侮れない4年生です。

それにしても、4年生でしたら卒論。私達のころと違ってネットの利用ということもありますが、やはり図書館さえもまともに使えずこの時期まで来ているのはふあんでしょうね。

すみません、署名を忘れました。

三友亭主人さん

 コメントをありがとうございます。

 本当にそう思います。
 今年の4年生は何とも気の毒です。
 大学としては、4年生には必要な図書館の本は郵送(宅配)しているようですが、それでも、書架の前に立って、自由に図書を手に取って利用できる状況とは大違いですので、さぞ不便なことでしょう。
 早く通常の状態に戻ってほしいものです。

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