演習の履修生からの質問(3)
昨日はまたmeetによる演習の日でした。
この授業は万葉集の概説からはじめましたが、このブログでもご披露していますように、学生さんからあれこれ質問が寄せられ、次の回でそれについて説明していますので、概説がなかなか終わりません。
ただ、演習ですので、前々回からは学生さんの発表も並行して行っています。
発表の方法は、分担を決めて順番に行うのではなく、全員に同じ課題を出して、毎回全員に発表してもらうという形式です。恩師O先生のやり方ですが、私がこの方法をとるのは教員になってから今回が初めてです。新型コロナの影響です。(^_^)
前回の課題は、万葉集の3399番歌「信濃路は今の墾り道~」の歌について、「万葉集校本データベース」で本文異同を調べ、そこに載っている諸注釈の口語訳を整理し、考えなさい、というものでした。この歌、4句目が元暦校本だけ「足踏ましなむ」、他の諸本は「足踏ましむな」です。どちらの本文に依るかで全体の解釈も変わってきます。
図書館が自由に使えれば、諸注釈に載っている語釈も参照できますし、当然そうすべきものですが、今はそれが叶わないので、口語訳だけを丁寧に読んで考えることになります。苦肉の策ではありますが、口語訳の比較だけでも意味はありそうです。
ちょっと難しすぎる課題だったと思いましたが、リアクションペーパー代わりのメールに、「1つの歌について調べて解釈をするというのは、ただ原文を読み訳を見て理解するのではなく、原文から調べて自分なりの解釈を見つける、ということなのだなと今回の課題発表で改めて思いました。」という感想を寄せてくれた学生がいました。2年生です。
そのように思ってくれたのならば、課題の目的は十分に達せられたと思います。
学生の発表が終わった後、5句目の「沓履け我が背」の「け」の仮名について、四段活用動詞の命令形、下二段活用動詞の命令形で「け」の甲乙が異なるという話をしました。これなどは、諸注釈の口語訳からは全く読み取れないことです。
それに関して、「(今までは甲乙のことがピンときていなかったが、)今回、活用形の違いが解釈の参考になることを知って、とても納得することができました」という感想を寄せてくれた学生がいました。これまた幸いです。甲乙のこと、もう少し補足しようと思いました。また概説が増える。(^_^)
同じ学生が、このような質問も書いていました。
>信濃路の歌ですが、「しなのち」も「かりはね」も「わかせ」も、全ての訓みが僻案抄のあたりで濁点付きに変わっていました。
>(奈良時代は濁点、半濁点は認識されていなかったと記憶しています。)
>これは、僻案抄がつくられた江戸時代あたりから、音韻の自然さをふまえた訓みをつけるようになった、ということでしょうか。
( )内の「濁点」「半濁点」というのは「濁音」「半濁音」のことでしょうかね。そうだとすると、次回説明しなくてはなりません。
それはともかく、この質問は、「万葉集校本データベース」では、万葉集の諸本や、仙覚抄、拾穂抄、代匠記あたりまでの諸注釈では訓に濁点が付いていないが、僻案抄以後の諸注釈では濁点が付いている、ということに着目しての質問です。
言われてみれば確かに3399番歌についてはそうなっています。恥ずかしながら、いつ頃から濁点を付けるようになってきたのかということは考えたこともありませんでした。「万葉集校本データベース」では、諸注釈それぞれの訓が濁点まで正確に反映されているかどうかの確認が必要ですが、調べてみないといけませんね。
また私の宿題が増える。
そして、またわが身の恥をブログにさらしています。(^_^;
今年の演習は大変に私の勉強になっています。
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しかしまあ、図書館が使えないってのは学生さんにとっては大変なことでしょうね。
卒業論文に取り組んでいる学生さんなんかはどうしていらっしゃるんでしょうかね?
私の4年生に時にこれがあったら、まあ完全にアウトで、もうあきらめていたでしょうね。
来年のことを考えて、学費のためにアルバイトをしていたりして(笑)
投稿: 三友亭主人 | 2020年6月24日 (水) 22時05分
三友亭主人さん
コメントをありがとうございます。
本当に、図書館が使えないと致命的ですね。
図書館の利用は徐々に緩和されていますが、故郷の親元にいる学生もいますので、なかなか。
国文学研究資料館のHPを覗いてみましたら、現在のところ、週に2日開館していて、人数制限のある予約制で対応しているようです。
本当にとんでもないことになってしまっています。
何とか無事に終息して欲しいです。
投稿: 玉村の源さん | 2020年6月24日 (水) 22時26分
大学のHPを覗きましたら、一部の授業で対面授業を再開するとありましたが、先生の演習はオンラインで継続ですか?
学生生活も色々と制限があるようで、気の毒の一言に尽きます。
言っても詮ないことですが、コロナ禍さえなければ・・・
投稿: やまゆり | 2020年6月26日 (金) 01時29分
やまゆりさん
コメントをありがとうございます。
今学期は原則遠隔授業です。
ただ、対面授業でないと所期の学修効果が得られないと考えられる科目については、「対面授業でなければならない理由」を書いて申請する、ということでした。
私の演習は、何とか対面授業でなくても大丈夫そうですので、このまま遠隔でやります。
むしろ、ディスプレイ越しにあれこれ見て貰えるという利点もありますので、前期は遠隔で押し通し、不足分を後期に対面で補う方が良いかと思っています。
そのためには、後期は無事に対面で実施できる必要があります。
投稿: 玉村の源さん | 2020年6月26日 (金) 02時01分