大正九年、群馬県の「流行性感冒予防注意書」
しばらく前、群馬県立文書館のフェイスブックに「流行性感冒予防注意書」という1枚紙の文書が載っていました。大正九年一月二十一日付、日本赤十字社群馬支部発行の書類です。
100年前のスペイン風邪への対応ですね。
標題の「流行性感冒予防注意書」には「はやりかぜのふせぎかた」(濁点は補いました)というふりがなが付いています。
このふりがなは、漢語では難しいと思われる人に対して、和語を用いた分かり易い解説といった趣旨なのでしょう。
現代では、「流行性感冒」に「はやりかぜ」というふりがなを付けることはないでしょうが、古代において、漢字や漢語に付けた「訓」というのは、日本における「意味」、いわば「訳」ですから、それと照らせば、「はやりかぜ」という訓はいわば一種の熟字訓として位置づけられそうです。
「予防注意書」に付けられた「ふせぎかた」というふりがなは、さらにその上をゆきそうです。
文書全体に総ルビが施されています。その中には現代と同様のふりがなと、「はやりかぜのふせぎかた」風のものと、両方あります。
大きな箇条書の一番は「伝染の仕方」で、ふりがなは「うつりかた」。二番は「容態」で、こちらは「ようだい」です。「容態」は和語に置き換えなくても、そのままで十分に理解できると考えられたのでしょうかね。
「一、伝染の仕方」の本文は以下の通りです。( )内にふりがなを示します。
流行性感冒(はやりかぜ)の毒(どく)は其(その)の病人(びやうにん)の痰(たん)や唾液(つば)の中(なか)にあり空気(くうき)を介(なかだち)して鼻(はな)及口(くち)から伝染(うつり)します
全体をざっと見ますと、病人、医者、頭痛、肺炎、心臓麻痺、石鹸液、硼酸水、療養、注射、学校、汽車、電車、馬車、相談、肝要、掃除などには現代と同様のふりがなが付いています。
一方、関節痛(ふしぶしのいたみ)、倦怠(だるいこと)、食気不振(くいもののまづきこと)、咽頭痛(のどのいたみ)、就床(とこにつき)、肺結核(はいびやう)、養生(てあて)、消毒薬(どくをけすくすり)、静養(ちからをつけ)、恢復(なをつた)、巡査駐在所(けいさつかんのうち)などは、訳語に近い感じです。
ま、訓というものの本質は訳語なわけですけど。
私は、大正時代の文書を見る機会が普段ありませんので新鮮に感じました。日頃から見ていらっしゃる方には珍しくもないことかもしれませんが。
内容的には、「四、予防の仕方」の中の「二」に「マスク(口覆)を用いなさい」という項目があります。「マスク」という語も使われてはいたのでしょうが、念のための「口覆」という説明でしょうか。
その下の「イ」に「マスクの見本は巡査駐在所や学校や役場にありますから可成(なるべく)自分で造りなさい」とあります。マスクは市販もされていたのかもしれませんが、自作が一般的だったのでしょうかね。
「四、予防の仕方」の中の「四、其他の数々」の「イ」に「夜遊は此際中止(およしなさい)」とあるのは、今と通じそうです。
あれこれ興味深い文書です。
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