「増補漢語早見大全」(5)
なんか、どこまでも続きそうで……。(^_^; 興味のない方、すみません。
「増補漢語早見大全」の第5弾です。今回は、この資料の誤りと思われるものを取り上げます。
3行目「苦情」に「セツナイ心」とあります。
「苦」はつらい、「情」は気持ちの意とすれば、切ない心というのは理解できます。
しかし、日国では「苦情」は以下の通りです。用例は出典のみ記します。
>く‐じょう[‥ジャウ] 【苦情】〔名〕
> (1)処置に困るような苦しい事情。
*近世紀聞〔1875~81〕
> (2)他から迷惑、害悪を受けていることに対する不平不満を表わしたことば。
*和蘭字彙〔1855~58〕、*改正増補和英語林集成〔1886〕、*浮雲〔1887~89〕、*思出の記〔1900~01〕、*良人の自白〔1904~06〕
この語は幕末明治から使われるようになったもののようですね。日国の(1)にあるような「処置に困るような苦しい事情」に身を置けば、確かに切ない気持ちになるでしょうが、ちょっとズレるように思います。
1行目「惰弱」に「ヤクニタヽズ」とあります。この語は日国には次のようにあります。
>だ‐じゃく 【惰弱・懦弱・堕弱】〔名〕(形動)
> (1)気力が弱く進取の気性のないこと。いくじがないこと。なまけて弱いこと。また、そのさま。
> *権記‐補遺・寛仁元年〔1017〕、*応永本論語抄〔1420〕、*読本・唐錦〔1780〕、*新撰字解〔1872〕、*自由太刀余波鋭鋒〔1884〕、*漢書
> (2)勢力の弱いこと。体力の弱いこと。また、そのさま。
> *古活字本毛詩抄〔17C前〕
こういう人は確かに、何かの時にあまり役に立たないかもしれませんが、それは結果であって、「惰弱」の意味とは違いましょう。
ただ、ここで興味深いことがあります。上に示した日国は、出典のみで用例は省略してしまいました。その(1)の『新撰字解』の用例は次の通りです。
> *新撰字解〔1872〕〈中村守男〉「懦弱 ダジャク ヤクニタタズ」
「ヤクニタタズ」とあります。「増補漢語早見大全」と一緒ですね。『新撰字解』との関連も推測されます。
最後の行「両端」に「フタマタ」とあります。念のため、日国を確認しましたが、両端は両方の端のこと、二股は「もとが一つで、末が二つに分かれているもの」ですから、違いますね。
3行目「祭典」に「マツリノヲキテ」とあります。「典」に「法典」などの熟語もありますので、「祭のおきて」というのもあり得るかと思いましたが、日国には次のようにあります。
>さい‐てん 【祭典】〔名〕
> 祭の儀式。祭。
> *新令字解〔1868〕〈荻田嘯〉「祭典 サイテン マツリノヲキテ」
> 用例は以下略
解説文には「祭の儀式。祭」とあるばかりで、「祭の掟」は載っていません。
ところが、上に見るように、この語については『新令字解』には「マツリノヲキテ」とあるのですね。
いやぁ、おもしろくてたまりません。(^_^)
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