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2019年10月30日 (水)

新町で公開講座。「さる」「なり」も

 今日は新町公民館で講座の日でした。隔週で全5回の講座、無事に終わりました。
 今日は前回に引き続き大伴家持です。
Yakamochizo02

 プリントは最後まで作って前回配ってありますので、今日は準備不要のはずが、そううまくはゆきません。(^_^;
 前回、自分への宿題を2つ課してしまいましたので、それをまとめなければなりませんでした。レジュメはこちら

 宿題の1つは「去る」です。「春されば」「夕されば」などは、「春になると」「夕方になると」の意で、「春が去ると」「夕方が去ると」の意ではありませんね。現代では「去る」は離れて行くことにしか使いませんが、上代では来ることにも使うと、辞書や注釈書に書かれています。
 これまで、授業や講座・講演などでは、それをそのまま受け売りしてきましたが、確認してみたくなりました。集中に「さる」は全部で129例ありました。分類すると以下のようになります。

A.季節が来る 65例
【春されば】春になると 27例
【春さり来れば】春になると 7例
【春さりぬれば】春になると 1例
【春さらば】春になったら 5例
【春さりゆくと】春になってくると 1例
【春さりゆかば】春になったら 1例
【春さりにけり】春が来たことだ 1例
【春さりくらし】春が来たらしい 1例
【春さりて】春になって 1例
【秋されば】秋になると 10例
【秋さらば】秋になったら 8例
【秋さりて】秋になって 1例
【秋さり衣】秋になって初めて着る衣 1例

B.時が来る 41例
【朝されば】朝になると 1例
【夕されば】夕方になると 30例
【夕さり来れば】夕方になると 2例
【夕さらば】夕方になったら 3例
【明けされば】夜が明けると 3例
【明けさりにけり】夜が明けてしまった 1例
【夜さり来れば】夜がやってくると 1例

C.(打消を伴って)欠けることなく 11例
【朝去らず】毎朝 5例
【夕去らず】毎夕 3例
【宵去らず】毎晩 2例
【岩もと去らず】全ての岩蔭に 1例

D.(打消を伴って)離れず 10例
【川淀去らず】川淀を離れず 1例
【海辺常去らず】海辺を常に離れず 1例
【み山を去らぬ】お山を離れない 1例
【朝廷去らずて】朝廷を去らずに 1例
【面影去らず】面影が消えることなく 1例
【床の辺去らず】床のあたりを離れず 3例
【枕去らずて】枕辺を離れず 1例
【ねどなさりそね】この寝床にいつもいてくれ 1例

E.離れて 2例
【枕片さる】あなたの枕が床の一方に寄っている 1例
 ○ここだくも思ひけめかも敷栲の枕片さる夢に見え来し(四・六三三)「枕片去」娘子
【夜床片去り】夜床の片方を開けてやすみ 1例
 ○~はしきよし 妻の命の 衣手の 別れし時よ ぬばたまの 夜床片さり 朝寝髪 掻きも梳らず 出でて来し 月日数みつつ~(一八・四一〇一)「夜床加多左里」大伴家持

 以上です。

 季節が来る、時が来る、の例が多く、特に「春されば」「夕されば」の例が目立ちます。夏や冬が来る例はありませんでした。

 そして、打消を伴って「欠けることなく」「離れず」の例があります。
 また、打消を伴わない「離れて」の例は2例しかありませんでした。この2例は用例を示しました。「枕片去り」「夜床片去り」というよく似た例です。

 何でしょねぇ。

 全体的に不思議な偏りを示しています。
 上代において「去る」は離れることにも近づくことにも使われるとはいいながら、近づく意で使われることが多く、しかも、それは季節と時間とに限られていて、人や動物が近づくことに使われた例はない。
 一方、離れる意で使われた例は打消を伴うことが多く、打消を伴わない例は最後の2例のみで、この2例は似たような意味で使われている。

 何かありそうです。

 表記はレジュメの方に示しましたように、万葉仮名の例の他は、「春去者」「夕去者」などが多いです。そんな中で、「春之在者(春されば)」3例というのがあり、気になります。「春しあれば」は実際に発音される場合には母音連続が回避されて、「春されば」となったことでしょうが(farusiareba→farusareba)、なぜ「春之在者」と書いたのか。

 ちょっとあれこれ考えてみます。

 もう1つの宿題は、いわゆる伝聞推量の助動詞「なり」です。平安以降は伝聞推量の助動詞として使われるこの語は、奈良時代には実際に「声がする」「音がする」という意の本動詞として使われた例が多い、という話をして、それを具体的に説明することになっていました。まとめはレジュメをご覧いただくとして、大部分は「声がする」「音がする」の意で、特に鳥の声についていうことが多いです。鳥の姿は見えなくても、声でなんの鳥なのかが分かって歌にしている例もあり、このようなあたりからも伝聞推量に繋がって行くのかという気がします。

 万葉集の「なり」の多くは「声がする」「音がする」の意ですが、少数ながら「ようだ」の意で用いられているとおぼしき例(4首5例)もありますので、伝聞推量の意でも使われ始めていたことになりましょう。

 毎回、皆さんとても静かに、熱心に聴いてくださり、やりやすかったです。質問も活溌に出ました。それを受けて、私の宿題も増えたのですが。(^_^;

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コメント

>夏や冬が来る例はありませんでした。

まあ、全く関係ない季節ですが春や秋は少しでも早く来てほしい季節ですが、夏や冬はねえ・・・
指揮の分類の中でも、夏や冬の歌は少ないし・・・

杉江さん

 コメントをありがとうございます。

 そうですね。今は夏や冬にもいろいろと楽しみがありますけど、昔は春や秋がメインですよね。
 冷暖房も非力な時代、夏や冬はつらかったでしょうね。

 あと、「春されば」「夕されば」のように、「さる」自体が慣用句化していそうな気もします。

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