文政5年の『懐宝 和漢年代記大全』(3)
さらに昨日の続きです。
『懐宝 和漢年代記大全』(以下『大全』)の裏面にはいろいろな情報が満載です。
高僧の一覧がありました。
漢字に直してみましたが、知らない人物も多く、間違いがあるかもしれません。
釈迦如来、達磨大師、聖徳太子、役行者、行基菩薩、良弁僧都、伝教大師(最澄)、
守敏僧都、弘法大師(空海)、慈覚大師(円仁)、元三大師(良源)、恵信僧都、
熊谷蓮生坊、道元禅師、円光大師(法然)、親鸞上人、一遍上人、日蓮上人、
了誉上人、一休和尚、古幡随院、雄誉上人、慈眼大師(天海)、空也上人、
智証大師(円珍)、証空上人、夢窓国師、隠元禅師、珂碩和尚、祐天僧正、了碩和尚
変わり種は「熊谷蓮生坊」でしょうか。一ノ谷の合戦で平敦盛を討ったことがきっかけで出家した熊谷直実ですね。能や歌舞伎などを通して江戸時代には著名だったのでしょう。
宗派の開祖など著名な僧は網羅されているように思えますが、道元があるのに、栄西がありません。
珂碩和尚は名も知りませんでしたが、奥沢の九品仏浄真寺を創建した人物と知りました。家の近くというほど近くはありませんが、以前奥沢に住んでいましたので、親近感が湧きました。
了碩和尚も全く知りませんでしたが、幡随院のお坊さんだそうです。
現代人と江戸時代の人とでは、関心や知識が違いますね。
『大全』が刊行された文政5年(1822)までの年数が記してありますので、これが人物特定の手がかりになると思ったのですが、史実に合致する者は少なく、ダメでした。
聖徳太子は日本書紀の記述と丁度100年違いですので、単純なミスと思われます。1~2年の差のある人物もいますが、中途半端な差のある人物も多く、誤りの経緯がよく分かりません。
もう1つ。文化人や武将の一覧もありました。
こちらも漢字に直してみました。
大織冠鎌足、守屋大臣、柿本人丸、山部赤人、吉備大臣、中将姫、猿丸大夫、
小野小町、在原業平、大友黒主、参議佐理卿、行成卿、菅丞相、小野道風、
紫式部、清少納言、西行法師、田村将軍、六孫王経基、多田満仲、源三位頼政、
平清盛、木曽義仲、源頼朝、源義経、最明寺時頼、楠正成、新田義貞、吉田兼好、
武田信玄、上杉謙信
万葉歌人は人麻呂と赤人だけでした。旅人、憶良、家持などはあまり関心を持たれていなかったのでしょうね。
猿丸大夫が入っているのは百人一首の影響ですかね。
こちらも、年代は史実と違っている人物の方が多いです。
そもそも没年未詳の人物が何人かいますけど、それらの人物についても漏れなく年数が示されています。
何か資料があったのか、あるいは「大体このあたり」ということで数字を入れたのかもしれません。
紫式部は、『大全』の数字で計算すると990年没となります。現代では源氏物語の年代として1008年という年代が示され、2008年には源氏千年紀の催しなどがありましたが、それと食い違いますね。
戦国武将では信玄と謙信が挙がっています。群雄割拠の時代、それ以外にも著名な武将がいましたが、江戸時代にはやはりこの2人が双璧ということになりましょうか。
信玄の没年は『大全』が4年遅くなっています。信玄は死に際して「三年喪を秘せ」と言ったという伝承がありますけど、そういう事情で、実際よりも遅い没年が伝承されていたということもあったのでしょうかね。
上の2つの一覧で、いずれの人物も没後文政5年までの年数が記されていますけど、あまり意味があるとは思えません。「○○年没」と書いてくれた方が分かり易かったと思います。大体、数年後にまた再版するような場合、また再版年を規準に年数を書き換えなければ(というより、版を彫り直さなければ)ならないので、大変に厄介と思います。
ともあれ、この2つのリスト、江戸時代後期の人々の関心の在り処や、知識などを知る手掛かりになりそうで、興味深いです。
« 文政5年の『懐宝 和漢年代記大全』(2) | トップページ | また金魚が密集 »
「史料・資料」カテゴリの記事
- 明治37年の「因幡の兎」(2025.01.19)
- 「ハナ ハト マメ マス」(2025.01.15)
- 長音表記&リンコルン(2025.01.14)
- 広瀬中佐の評価は(2024.11.24)
- 老農船津伝次平(2024.11.23)
「歴史」カテゴリの記事
- 『ならら』最新号の特集は「昭和100年」(2024.12.28)
- 『光る君へ ART BOOK』(2024.12.16)
- 『光る君へメモリアルブック』(2024.12.13)
- 萩松陰神社の絵はがきに(2024.12.08)
- 萩の松陰神社のクラウドファンディング(2024.12.07)
「民俗・宗教」カテゴリの記事
- 萩の松陰神社のクラウドファンディング(2024.12.07)
- 『ならら』最新号の特集は「春日若宮おん祭」(2024.11.30)
- カプセルトイの四天王像(2024.11.27)
- シンポジウム「方言で味わう郷土食の多様性」(2024.10.29)
- 群馬県立女子大学で獅子舞(2024.10.26)
コメント