『令和と万葉集』を読んで
1週間ほど前の6月18日に村田右富実先生の『令和と万葉集』という本を取り上げました。
その時は、まだ読み始めたところでしたので、表紙と目次とをご紹介しただけでしたが、先頃読み終わりましたので、もう1度。
大変に分かり易く読みやすい本でした。内容もよく納得できます。
梅花歌の序の典拠というと、「令和」の部分に関わる「蘭亭序」と「帰田賦」ばかりが注目されていますが、梅花歌の序全体では、十数点の典拠の存在が指摘されています。
現代と異なり、当時は多くの典拠を踏まえることが教養であったとも述べられています。
このような記述がありました。
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勿論、漢文の常識ではあるものの、多様な典拠は友人との感覚共有のためにあったといってもよい。
その証拠に、これまで述べてきた数多くの典拠が持っている背景や意味の全てを踏まえて「梅花歌の序」を理解しようとすれば、まちがいなく破綻する。本書ではそれぞれの典拠について細かに書いてはいないが、たとえば『抱朴子』の「膝を促(ちかづ)け狭きに坐り、坏觴(はいしょう)を咫尺に交はす」は、無遠慮な人々が人妻に色目を使う場面である。「塘上行」は女性の容姿の衰えの比喩だった。数ある典拠の中から「帰田賦」だけを取り上げて、「令和」は「政治に失敗した時の典拠が踏まえられている」などと主張するのはお門違いである。……「帰田賦」は、「梅花歌の序」のたくさんある典拠の一つに過ぎない。(P.120)
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とてもよく納得できます。
「あとがき」によれば、村田先生がこの本を書き始めたのは四月一日の夜とのことです。新元号にまつわる誤解を解きたかったというのが執筆の動機だったようです。
「あとがき」からも引用します。
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本文中にも書きましたが、元号は政治以外のなにものでもありません。支配する側はいいように利用します。反体制側も利用します。書き始めた数日後、「『万葉集』はネトウヨ(インターネット上で右翼的発言を繰り返す人々)の書だとネットに書き込みがあった」とかみさんから聞いた時は、心底驚きました。書き始めてよかったと思った瞬間でした。
『万葉集』には最悪の政治利用の過去があります。戦争礼讃に悪用された時期があります。消し去ることのできない忌まわしい過去です。……その愚を繰り返さないために、繰り返させないためには、実際に『万葉集』を手に取ってもらうのが一番です。
是非、『万葉集』を少し愛して長く愛してください。
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これまたよく納得できます。「少し愛して長く愛して」は、典拠のある言葉ですね。この著書全体で典拠のことを縷々述べていらしたので、あとがきの末尾を典拠のある言葉で結ばれたものと推察します。
「附章」として「大伴旅人という生き方」という章があります。
ここを読むと、村田先生の万葉集に対する愛、大伴旅人に対する愛を感じ、心に響きました。
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>『万葉集』を少し愛して長く愛してください。
三輪山セミナーでも繰り返しこのようなことをおっしゃていました。
村田先生の最近の著述もこの辺りに焦点を置かれているんでしょうね。
一緒に三輪山セミナーを聞きに行った妻はさっそく村田先生の「おさんぽ万葉集」を購入してました。
投稿: 三友亭主人 | 2019年6月28日 (金) 22時02分
三友亭主人さん
コメントをありがとうございます。
三輪山セミナーでも同様のことを仰っていましたか。ご執筆の時期とも重なっていたのでしょうし、お気に入りのフレーズでもあるのでしょうね。(^_^)
確かに、「典拠」の身近な例になりますよね。
三輪山セミナーには奥様とご一緒に行かれたのでしたか。
素敵なことと存じます。
投稿: 玉村の源さん | 2019年6月28日 (金) 22時15分