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2019年5月13日 (月)

旧制中学校の国語教科書に採られた万葉歌

 先日届いた上代文学会の機関誌『上代文学』で、「高等学校国語教科書『万葉集』採録データ」というエクセルデータがネット上に公開されていることを知りました。
 このデータは、恒吉薫氏が東京大学に提出した2017年度の卒業論文の資料だそうです。

恒吉薫氏作成「高等学校国語教科書『万葉集』採録データ」
https://drive.google.com/file/d/1DLLjRmMMZN3NY95n3lZ6c36t9j3wzfOS/view

恒吉薫氏作成「高等学校国語教科書『万葉集』採録データ」について(利用に際しての注意事項)品田悦一氏
http://jodaibungakukai.org/pdf/20191219_importantpoint.pdf

 データは4種からなっており、戦前・戦中の旧制中学校、同じく高等女学校、戦後の平成14年以前の高等学校、平成15年以降の高等学校、という各時期の国語教科書それぞれにどの万葉歌が採録されているかが示されています。
 多数の教科書を実際に調査して得られた貴重なデータで、圧倒されます。
 数を数えてみましたら、旧制中学校の教科書に採られた万葉歌はのべ1328首、高等女学校はのべ978首、戦後前期はのべ11907首、戦後後期はのべ1011首でした。この数は私の集計によるもので、違っていれば私の責任です。

 データがあると集計したくなります。(^_^) サガのようなものです。(^_^;
 個人的には、以前から作成している「代表的な万葉歌」のデータにしようとの思いがあります。

 まず、旧制中学校の国語教科書に、どの歌が何点の教科書に採られていたのかを集計してみました。

 上位20位までを挙げます。

01.田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける(3・318)山部赤人 71点
02.天地の 分れし時ゆ 神さびて 高く貴き 駿河なる 布士の高嶺を 天の原 振り放け見れば 渡る日の 影も隠らひ 照る月の 光も見えず 白雲も い行きはばかり 時じくそ 雪は降りける 語り継ぎ 言ひ継ぎ行かむ 不尽の高嶺は(3・317)山部赤人 68点
02.銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも(5・803)山上憶良 68点
04.瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ いづくより 来りしものそ まなかひに もとなかかりて 安寐し寝さぬ(5・802)山上憶良 65点
05.大夫は名をし立つべし後の世に聞き継ぐ人も語り継ぐがね(19・4165)大伴家持 50点
06.玉たすき 畝傍の山の 橿原の ひじりの御代ゆ 生れましし 神のことごと 栂の木の いや継ぎ継ぎに 天の下 知らしめししを そらにみつ 大和を置きて あをによし 奈良山を越え いかさまに 思ほしめせか 天離る 鄙にはあれど 石走る 近江の国の 楽浪の 大津の宮に 天の下 知らしめしけむ 天皇の 神の命の 大宮は ここと聞けども 大殿は ここと言へども 春草の 茂く生ひたる 霞立つ 春日の霧れる ももしきの 大宮ところ 見れば悲しも(1・29)柿本人麻呂 44点
06.楽浪の志賀の辛崎幸くあれど大宮人の舟待ちかねつ(1・30)柿本人麻呂 44点
08.東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ(1・48)柿本人麻呂 34点
09.楽浪の志賀の大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも(1・31)柿本人麻呂 31点
10.若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る(6・919)山部赤人29点
10.御民我れ生ける験あり天地の栄ゆる時にあへらく思へば(6・996)海犬養岡麻呂 29点
12.士やも空しくあるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして(6・978)山上憶良 27点
12.ちちの実の 父の命 ははそ葉の 母の命 おほろかに 心尽して 思ふらむ その子なれやも 大夫や 空しくあるべき 梓弓 末振り起し 投矢持ち 千尋射わたし 剣大刀 腰に取り佩き あしひきの 八つ峰踏み越え さしまくる 心障らず 後の世の 語り継ぐべく 名を立つべしも(19・4164)大伴家持 27点
12.我が宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも(19・4291)大伴家持 27点
12.剣太刀いよよ磨ぐべし古ゆさやけく負ひて来にしその名ぞ(20・4467)大伴家持 27点
16.石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも(8・1418)志貴皇子 26点
17.あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり(3・328)小野老 25点
18.やすみしし 我が大君 神ながら 神さびせすと 吉野川 たぎつ河内に 高殿を 高知りまして 登り立ち 国見をせせば たたなはる 青垣山 山神の 奉る御調と 春へは 花かざし持ち 秋立てば 黄葉かざせり 行き沿ふ 川の神も 大御食に 仕へ奉ると 上つ瀬に 鵜川を立ち 下つ瀬に 小網さし渡す 山川も 依りて仕ふる 神の御代かも(1・38)柿本人麻呂 24点
19.山川も依りて仕ふる神ながらたぎつ河内に舟出せすかも(1・39)柿本人麻呂 23点
20.今日よりはかへり見なくて大君の醜の御楯と出で立つ我は(20・4373)今奉部与曽布/下野防人 21点


 赤人の富士山の歌や、憶良の子どもの歌が上位に来るのは今と変わりません。8位の「かぎろひの立つ見えて」、16位の「石走る」、17位の「あをによし」なども変わらぬ人気です。

 一方で、5位の家持の「大夫は名をし立つべし」、10位の「御民我れ」、20位の「醜の御楯」に時代を感じます。

 逆に、今なら上位に並ぶのに、旧制中学校の教科書には全く採られていない歌に、額田王の「あかねさす」(1・20)、大海人皇子の「むらさきの」(1・21)、「磯城島の大和の国に人二人ありとし思はば何か嘆かむ」(13・3249)、磐姫皇后の「秋の田の穂の上に霧らふ朝霞いつへの方に我が恋やまむ」(2・88)、未勘国東歌の「稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ」(14・3459)などがあります。

 この旧制中学校国語教科書のデータをわが「代表的な万葉歌」に組み込むと、順位が大幅に変わってしまいます。何か調整が必要に思いますが、恣意的になってはいけません。今後、高等女学校のデータや戦後のデータも集計して加えるつもりですので、それによって修正が期待できるのではないかと思います。
 戦後前期のデータは膨大ですので、少し先になりそうですが、どんな歌が採られているのか楽しみです。(^_^)
Gunmac_kanjin

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コメント

>データがあると集計したくなります。(^_^) サガのようなもの

ははは・・・ですね。仕方ありませんね。
ついうっかりしてどっかにやってしまったのですが、今から10年ちょっと前のことだったのですが、奈良の高校の国語の先生の集いに、私の師匠ではないほうのM田先生がいらしゃってお話を下さったのですが、その時に同じ趣旨のデータをお示しくださったのを思い出しました。

三友亭主人さん

 集計癖は直せません。(^_^;

 あ、こういった集計は他の方もなさっているのですね。
 やはり、何か考えるに当たっては、まずきちんとしたデータが必要ですよね。

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