« 高等女学校の国語教科書に採られた万葉歌 | トップページ | 戦後の高等学校国語教科書に採られた万葉歌(後) »

2019年5月15日 (水)

戦後の高等学校国語教科書に採られた万葉歌(前)

 一昨日、昨日の続きです。
 今日は、戦後の高等学校国語教科書のうち平成14年以前の分を集計しました。対象となる教科書の数も多く、採録された万葉歌はのべ11904首にのぼります。一昨日は11907首と書きましたが、数え違いがありました。訂正致します。
 そして、異なり歌数は919首にのぼります。これは全く意外でした。戦後、多数の国語教科書が発行されていても、そこに掲載されている万葉歌は精々100首くらいの中から選ばれているものと思っていました。これだけ多くの万葉歌が選ばれていたとは……。とは。

 上位20首を挙げます。

01.うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独し思へば(19・4292)大伴家持 233点
02.ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く(6・925)山部赤人 223点
03.み吉野の象山の際の木末にはここだも騒く鳥の声かも(6・924)山部赤人 216点
04.多摩川に曝す手作さらさらに何そこの児のここだ愛しき(14・3373)東歌(武蔵) 202点
05.熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな(1・8)額田王 201点
06.我が宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも(19・4291)大伴家持 189点
07.銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも(5・803)山上憶良 180点
08.田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける(3・318)山部赤人 170点
09.近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ(3・266)柿本人麻呂 167点
09.憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も我を待つらむぞ(3・337)山上憶良 167点
09.春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子(19・4139)大伴家持 167点
12.験なきものを思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし(3・338)大伴旅人 162点
12.瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ いづくより 来りしものそ まなかひに もとなかかりて 安寐し寝なさぬ(5・802)山上憶良 162点
14.信濃道は今の墾道刈株に足踏ましなむ履着けわが背(14・3399)東歌(信濃) 161点
15.春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影に鴬鳴くも(19・4290)大伴家持 158点
16.天地の 分れし時ゆ 神さびて 高く貴き 駿河なる 布士の高嶺を 天の原 振り放け見れば 渡る日の 影も隠らひ 照る月の 光も見えず 白雲も い行きはばかり 時じくそ 雪は降りける 語り継ぎ 言ひ継ぎ行かむ 不尽の高嶺は(3・317)山部赤人 157点
17.笹の葉はみ山もさやにさやげども我れは妹思ふ別れ来ぬれば(2・133)柿本人麻呂 151点
18.石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも(8・1418)志貴皇子 149点
19.世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば(5・893)山上憶良 141点
20.石見のや高角山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか(2・132)柿本人麻呂 140点

 大変によく納得できる歌々と思います。
 21位以下には、次の歌が続きます。

 ・防人に行くは誰が背と問ふ人を見るがともしさ物思ひもせず
 ・君が行く道のながてを繰り畳ね焼きほろぼさむ天の火もがも
 ・石見の海 角の浦廻を 浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと 人こそ見らめ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟は なくとも 鯨魚取り 海辺を指して 柔田津の 荒礒の上に か青なる 玉藻沖つ藻 朝羽振る 風こそ寄せめ 夕羽振る 波こそ来寄れ 波のむた か寄りかく寄り 玉藻なす 寄り寝し妹を 露霜の 置きてし来れば この道の 八十隈ごとに 万たび かへり見すれど いや遠に 里は離りぬ いや高に 山も越え来ぬ 夏草の 思ひ萎へて 偲ふらむ 妹が門見む 靡けこの山
 ・若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る
 ・父母が頭掻き撫で幸くあれて言ひし言葉ぜ忘れかねつる
 ・あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る
 ・稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ

 上位20位のうち、
 ・多摩川に曝す手作さらさらに何そこの児のここだ愛しき
 ・春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子
 ・験なきものを思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし
 ・信濃道は今の墾道刈株に足踏ましなむ履着けわが背
 ・石見のや高角山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか
の5首は、戦前の旧制中学校・高等女学校の教科書には1点も採られていません。

 また、
 ・うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独し思へば
 ・み吉野の象山の際の木末にはここだも騒く鳥の声かも
 ・笹の葉はみ山もさやにさやげども我れは妹思ふ別れ来ぬれば
 ・世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
なども、旧制中学校・高等女学校の教科書には採られてはいてもごく少数です。

 おまけとして挙げた21位以下の歌についても、「若の浦に」と「父母が」以外は、やはり旧制中学・高女の教科書には全く採られていません。
 戦前・戦後で大きく変わったことが分かります。
Gunmac_tobe02
 あ、上の画像は「飛躍」のイメージです。(^_^)

« 高等女学校の国語教科書に採られた万葉歌 | トップページ | 戦後の高等学校国語教科書に採られた万葉歌(後) »

万葉集」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 高等女学校の国語教科書に採られた万葉歌 | トップページ | 戦後の高等学校国語教科書に採られた万葉歌(後) »

2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

ウェブページ