万葉集によまれた萩(1)
昨日の記事「移ろふつきくさ」に萩さんから頂いたコメントを受けて、万葉集における萩を見てみました。
万葉集中、萩をよんだ歌は全部で141首あります。集中、最も多くの歌によまれている植物が萩です。萩は万葉人に好まれた植物なのでしょう。
全141首のうち、四季分類のある巻8と巻10とに110首(78%)が集中しています。110首のうち109首は秋であり、萩は秋を代表する景物といえましょう。秋以外の萩をよんだ1首というのは、巻8の春の雑歌です。
百済野の萩の古枝に春待つと居りし鴬鳴きにけむかも(8-1431)山部赤人
この歌の主体は鴬で、萩はその鴬がとまっていた「萩の古枝」としてよまれています。
山上憶良に「秋の野の花を詠む二首」があります。
秋の野に咲きたる花を指(および)折りかき数ふれば七種(ななくさ)の花 其の一(8-1537)
萩の花尾花葛花瞿麦(なでしこ)の花女郎花(をみなへし)また藤袴朝貌(あさかほ)の花 其の二(1538)
この歌でも萩は秋の七草のトップに歌われています。←ただ、旋頭歌の577577という歌体でよむ必要上、音数の関係でトップに持ってきたという可能性もあります。
萩の花は鹿の妻であるとされ、たとえば次のような歌があります。
我が岡にさを鹿来鳴く初萩の花妻どひに来鳴くさを鹿(8-1541)大伴旅人
秋萩を 妻どふ鹿こそ 独り子に 子持てりといへ ……(9-1790)遣唐使の母
これらの歌では、鹿の妻問いの対象が萩であるとうたっています。動物が植物を妻とするというのは何ともユニークな(あるいは奇異な)発想といえましょう。他にも同じ歌に萩と鹿とがよみ込まれたものは23首ありますが、全141首に対しては16%ほどですので、そういつも両者がセットでよまれているわけでもありません。
萩は山や野に自生している他、自宅の庭にも植えられています。
野に自生している萩。
高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに(2-231)笠金村
秋風は涼しくなりぬ馬並めていざ野に行かな萩の花見に(10-2103)
家の庭に植えられている萩。
我が宿の一群萩を思ふ子に見せずほとほと散らしつるかも(8-1565)大伴家持
我が宿の萩花咲けり見に来ませいま二日だみあらば散りなむ(8-1621)巫部麻蘇娘子
この2首は、どちらも人に見せたいと思っていますね。きれいに咲いたのでしょう。
これから咲くであろう萩をよんだ歌に次のようなものがあります。
秋萩は咲くべくあらし我がやどの浅茅が花の散りゆく見れば(8-1514)穂積皇子
我が待ちし秋は来たりぬしかれども萩の花ぞもいまだ咲かずける(10-2123)
満開の萩をよんだ歌。
草枕旅行く人も行き触ればにほひぬべくも咲ける萩かも(8-1532)笠金村
見まく欲り我が待ち恋ひし秋萩は枝もしみみに花咲きにけり(10-2124)
散る萩もよまれます。1首目は風に散る萩、2首目は雨に散る萩です。
真葛原靡く秋風吹くごとに阿太の大野の萩の花散る(10-2096)
明日香川行き廻る岡の秋萩は今日降る雨に散りか過ぎなむ(8-1557)丹比国人
露の置く萩。
秋の野に咲ける秋萩秋風に靡ける上に秋の露置けり(8-1597)大伴家持
妻恋ひに鹿鳴く山辺の秋萩は露霜寒み盛り過ぎゆく(8-1600)石川広成
黄葉する萩。
雲の上に鳴きつる雁の寒きなへ萩の下葉はもみちぬるかも(8-1575)
時雨に散るのを恐れる黄葉した萩。
さ夜更けてしぐれな降りそ秋萩の本葉の黄葉散らまく惜しも(10-2215)
歌数が多いので、様々な萩がよまれています。
つきくさの場合は比喩としてよまれることが多かったのですが、萩の場合は実際の萩そのものをよんだ例が多かったです。
萩のよまれ方について、さらに検討してみます。
先行研究、たくさんありそうなので、それらにも目を通さねば。
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またまことにきれいな萩の写真ですね。
美しい。
また,万葉集にうたわれたの萩の花をくわしく取り上げてくださいました。
ありがとうございます。
一日のうちにこれだけ,調べて記述してしまうのは,さすがに源さん。
恐れ入りました。
梅山由紀子(第8期卒業生)さんの「万葉集植物の歌」の秋の項にある萩をクリックすると
詳しい説明がありますね。
(ところで,ここでの私のページへのリンクが切れています。http://hagi-web.la.coocan.jp/)
昔は,掲示板やブログより,WEBページが中心でしたよね。
私が源さんの知合うきっかけは,
源さんのページに萩の花のことが掲載されていたからでした。
懐かしい。
投稿: 萩さん | 2018年8月11日 (土) 22時27分
萩さん
今日の記事をご覧くださいましてありがとうございます。
また、萩の写真を誉めて頂き、ありがとうございます。
平成18年8月28日、群馬県立女子大学の秋の庭での撮影でした。デジカメで撮った写真はタイムスタンプが記録されるので便利です。(^_^) もう12年も前ですね。
梅山さんが書いてくれたページのリンク切れ、失礼しました。正しいものに直しておきました。
このページを見ると、万葉集における萩の例数と、鹿ともによまれた歌数とが、それぞれ1例ずつ異なりますね。究明せねば。(^_^;
萩さんとは随分長いお付き合いですね。本当に懐かしいです。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
投稿: 玉村の源さん | 2018年8月11日 (土) 23時01分