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2018年7月26日 (木)

大映「忠臣蔵」(S33)の配役変更

 大映京都撮影所の宣伝課が発行した「特報」を入手しました。3枚ペラで綴じてありません。昭和33年に封切られた大映の「忠臣蔵」に関する特報です。いつの発行か書いてありませんが、「この「忠臣蔵」は……封切は陽春四月第一週、撮影は新春一月十五日より堂々の火蓋を切られることが決定した」とあります。前年昭和32年の11月、12月くらいの発行でしょうか。
S33chutoku01
 これに、96名に及ぶ配役が載っています。
S33chutoku02
 かなり詳しい配役ですので、台本も決定稿ではないにしても、かなりの程度までできていたものと思われます。
S33chutoku03
 これを見ると、
 大石内蔵助:長谷川一夫
 りく:淡島千景

 浅野内匠頭:市川雷蔵
 瑶泉院:山本富士子

 吉良上野介:滝沢修

 岡野金右衛門:鶴田浩二
 大工の娘お鈴:若尾文子

 赤垣源蔵:勝新太郎

 垣見五郎兵衛:中村鴈治郎
などなど、豪華な面々です。

 私の好きな作品で、終盤の瑶泉院など、何度見ても泣きそうになります。

 さて、上に示した配役は実際の映画と同じですが、これ以外については、実際とは異なる点がいくつかあります。

 この作品で、異例ともいうほどに活躍している多門伝八郎を、映画では黒川弥太郎が演じているのに、この「特報」では多門役は根上淳になっています。

 黒川弥太郎は「特報」では片岡源五右衛門を演ずることになっています。その片岡は、映画では香川良介が演じています。香川は「特報」では赤垣源蔵の兄塩山伊左衛門役です。その塩山は映画では竜崎一郎が演じています。竜崎は「特報」にはキャスティングされていません。また、「特報」で多門を演じることになっていた根上淳は、映画では老中土屋相模守を演じています。土屋相模守は「特報」には役名が載っていません。

 ということで、玉突き状態の役替えが行われています。この玉突きは、当初キャスティングされていなかった竜崎一郎を加え、当初は出番がなかった土屋相模守を増やすことで、止めどなく続くことなく収まりました。

 映画では多門伝八郎が異例の活躍をしていますので、この役替えは、黒川弥太郎には幸いですが、根上淳は気の毒なことと思いました。

 役替えは新発見かと思いましたが、そうではなく、『戦後「忠臣蔵」映画の全貌』(谷川建司著、集英社クリエイティブ、2013年11月刊)を見たら、既に書いてありました。(^_^; 新発見はそう簡単にはできません。

 この本では、配役変更の理由は不明としながらも、この作品の渡辺邦男監督が以前から黒川弥太郎を自分の作品に使い続けてきていたので、「贔屓の黒川弥太郎の役を大きくするべく監督特権で調整したのはほぼ間違いないだろう。」とありました。

 役替えだけでなく、台本も変えて、多門の出番を増やしていそうですね。

 これ以外の変更としては、小林平八郎が高松英郎から原聖四郎へ、脇坂淡路守が原聖四郎から菅原謙二へ、関根弥次郎(祇園で大石を罵倒する浪人)が菅原謙二から高松英郎へ、というのがあります。こちらは三角トレードですね。

 また、滝花久子が、堀部弥兵衛の妻から矢頭右衛門七の母へと変わっています。「特報」には矢頭右衛門七の母は登場せず、映画には堀部弥兵衛の妻は登場しません。これは、台本にはなかった矢頭右衛門七の母のエピソードをあとから加えて滝花久子にその役を割り振り、その代わり、滝花久子が演じるはずだった堀部弥兵衛の妻の出番を削ったのでしょう。

 今回入手した「特報」、当初はわがライフワーク(作業はずっと中断していますけど)の忠臣蔵配役表の作成資料にというつもりだったのですが、作成資料にはならず、その代わりもっと面白い資料でした。(^_^)

 1つだけ見ていたのでは分からないことが、2つの資料を比べることで見えてくることってありますよね。古事記と日本書紀もそう思います。比較は面白いです。

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読み通すには一頑張りが必要かも。
読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
ネット小説も面白いです。

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