代表的な万葉歌
ブログの「まほろぐ」が始まる前、掲示板「まほろば」の頃だったでしょうか、代表的な万葉歌のリストを作ったことがありました。
方法は、『万葉秀歌』(斎藤茂吉)、『万葉百歌』(山本健吉・池田弥三郎)、『私の万葉集』(大岡信)、『日めくり万葉集』(NHK)など、合計8種類のテキストが、それぞれどの歌を選んでいるのかを集計したものです。
その際、100首しか選んでいないテキストと800首以上の歌を選んでいるテキストとを同列に扱ったのでは、1票の格差が生じてしまいますので、実際の集計は、総数100首のうちの1首に選ばれた歌は1首1/100ポイント、800首のうちの1首に選ばれた歌は1首1/800ポイントとして合計しました。
先日、美夫君志会の『萬葉百首』を入手しましたので、今回そのデータを加えました。
結果は以下の通りです。ベスト20を示します。
1 あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る(額田王)1・20
2 紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも(天武天皇)1・21
2 我が宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも(大伴家持)19・4291
4 み吉野の象山の際の木末にはここだも騒く鳥の声かも(山部赤人)6・924
4 石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも(志貴皇子)8・1418
6 我が背子を大和へ遣るとさ夜更けて暁露に我れ立ち濡れし(大伯皇女)2・105
7 磯城島の大和の国に人二人ありとし思はば何か嘆かむ(作者不明)13・3249
8 わたつみの豊旗雲に入り日差し今夜の月夜清く照りこそ(天智天皇)1・15
8 秋の田の穂の上に霧らふ朝霞いつへの方に我が恋やまむ(磐姫皇后)2・88
8 笹の葉はみ山もさやにさやげども我れは妹思ふ別れ来ぬれば(柿本人麻呂)2・133
8 夕されば小倉の山に鳴く鹿は今夜は鳴かず寐ねにけらしも(舒明天皇)8・1511
8 稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ(東歌)14・3459
13 我はもや安見児得たり皆人の得かてにすといふ安見児得たり(藤原鎌足)2・95
14 吉野なる菜摘の川の川淀に鴨ぞ鳴くなる山蔭にして(湯原王)3・375
15 熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな(額田王)1・8
15 うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独し思へば(大伴家持)19・4292
17 東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ(柿本人麻呂)1・48
17 葦辺行く鴨の羽交ひに霜降りて寒き夕は大和し思ほゆ(志貴皇子)1・64
19 君が行く道のながてを繰り畳ね焼きほろぼさむ天の火もがも(狭野弟上娘子)15・3724
20 一つ松幾代か経ぬる吹く風の声の清きは年深みかも(市原王)6・1042
いかがでしょうか。著名な歌が並んでいます。それなりに納得できる結果ではないかと思います。
ただ、美夫君志会萬葉百首を加えたことで、加える前よりも順位が下がった歌に以下のものがあります。
15 熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな(額田王)1・8
15 うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独し思へば(大伴家持)19・4292
17 東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ(柿本人麻呂)1・48
17 葦辺行く鴨の羽交ひに霜降りて寒き夕は大和し思ほゆ(志貴皇子)1・64
「熟田津に」(額田王)と「うらうらに」(家持)の歌は、もとは「紫草の」(天武)と「我が宿の」(家持)の歌とともに、4首揃って第2位でした。それが、今回の美夫君志会萬葉百首は百人一首方式であるために、同一作者の歌は一首しか採れず、これらの歌はその割を食いました。「東の」(人麻呂)と「葦辺行く」(志貴)も事情は全く同様で、この2首とも、もとは6位であったものが大分順位を下げています。
百人一首形式だとこういう問題が生じます。配点のウェイトを考える必要がありそうです。
対象となる選歌集を増やすとともに、合理的な集計方法も検討してゆきます。
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>掲示板「まほろば」の頃だったでしょうか、代表的な万葉歌のリストを作ったことがありました。
しっかり私のコンピューターの中に保存してありますよ。
個人的に選ぶんならまた別な並びになるんでしょうが、まあおおむね納得できる順番ですよね。
個人的には
旅人の宿りせむ野に、霜降らば、我が子、羽ぐくめ天の鶴群
が入っていてほしいような気がするんですが・・・
投稿: 三友亭主人 | 2018年2月27日 (火) 22時14分
追伸
69番目に入っていましたね。
投稿: 三友亭主人 | 2018年2月27日 (火) 22時18分
三友亭主人さん
パソコンに保存していてくださり、ありがとうございます。励みになります。
「わが子羽ぐくめ」の歌、いいですね。
三友亭主人さんが保存してくださったいた段階では69位でしたか。どうやら、その後、データを増やしたようで、その後、43位になっていました。それが、今回美夫君志萬葉百首を加えたことで、現在24位です。
この歌は、百人一首形式のデータが増えたことでプラスに動きました。
データ処理の仕方、なかなか含蓄があります。
理想を目指します。(^_^)
投稿: 玉村の源さん | 2018年2月27日 (火) 22時27分