« 『日本地理初歩』(明治26年) | トップページ | 興福寺・春日大社の駅弁 »

2016年10月 2日 (日)

「盛り土」の読みについて

 東京の豊洲市場問題で「盛り土」という語が盛んに登場しています。

 それを「もりど」と発音していますけど、「盛り土」の読みは「もりつち」なのか「もりど」なのか。朝日新聞社に小泉純一郎元首相からも質問が寄せられたとのことで、アサヒコムに採り上げられています。

 それによれば、大手ゼネコンの広報担当者に聞いたところ、「私たち建設業界では、造成工事で山の土を崩して平らにならすことを、『切り盛りする』と言うんです。そこから、切(き)り土(ど)、盛(も)り土(ど)、とも言います。一種の専門用語というか、業界用語です。正しい日本語ではないかもしれないですが……」という回答だったそうです。「そこから」以下、なぜ「土」を音読みするかの答えにはなっていませんね。業界用語ということは分かります。

 そして、国語学者の金田一秀穂氏に聞いた答えが書いてありました。そこには重箱読み、湯桶読みについてのどうということのない説明の後に、「一般用語を使わず、仲間うちだけに通じる特別な言い方をして仲間意識を高めたり、権威やヒエラルキーを示したりすることがあるんですが、これもその一種ではないでしょうか」とあります。

 ま、「もりど」という読みにそこまでの意味合いがあるかどうかは何ともです。

 記事の最後は、この金田一氏の発言を受けて、「そういえば、自治体関係者は「首長(しゅちょう)」を「くびちょう」と読むことがありますね。」と結ばれていました。

 これ、例として適切でしょうかね。

 「首長」を「くびちょう」と読むのは、耳で聞いた時に「主長」と区別するためで、「化学」を「ばけがく」と読んだり、「私立」を「わたくしりつ」と読んだり、「試案」を「こころみのあん」と読んだりするのと同様だと思いますけど。

 ちなみに日国では、「首長」の項に次のようにあります。(用例省略)

(1)集団・団体を統率する長。主宰者。かしら。主長。
(2)行政機関の独任制の長官。特に内閣総理大臣。知事、市町村長などをさすこともある。

 つまり、(1)は「首長」とも「主長」とも書くことがあるけれども、(2)の方は「首長」としか書かないということですね。用例には、「外国の首長」「首長たる内閣総理大臣」が挙がっています。行政の専門用語ということになりましょう。

 ニュースに登場する「しゅちょう」はあらかた「首長」の方なので、それを明示するために「くびちょう」と読んでいるのでしょう。同音異義語のバッティングを避けるためですね。

 「盛り土」を「もりど」と読むのも、もしかしたら一般的に用いる「もりつち」とは違う概念だということを示すためかもしれないと思えてきました。

 またまたちなみに、日国では「もりつち」の項に「土地収用法〔1951〕七五条「修繕又は盛土若しくは切土をする必要が生ずるときは」」という例が挙がっていました。ここに登場する「盛土」「切土」って、冒頭の大手ゼネコン関係者の言葉に登場するものと重なりますね。日国では「もりつち」の用例として挙がっていますけど、漢字表記ですので、読みは「もりど」か「もりつち」か分かりません。

 この法律の文言、建設業界の用語を利用したのか、それとも建設業界の方でこの法律に則した用語を使うようになったのか、先後関係が分かりませんが、密接な関係がありそうです。深そうです。

 この新聞記事のゼネコン関係者、金田一氏、新聞記者、みな踏み込み不足と思われます。
Gunmac_tsuruhashi

« 『日本地理初歩』(明治26年) | トップページ | 興福寺・春日大社の駅弁 »

日常」カテゴリの記事

文字・言語」カテゴリの記事

コメント

私もこの言葉は気になっていまして・・・

なんか胡散臭い言葉だなあ・・・まあ、胡散臭い世界の専門用語だろうから仕方ないかとは思っていたのですが・・・世界は変わって・・・行政あたりでも、なんでこんな読み方があるのって読ませ方をする場合もありますしね。

「日国」(にっこく)も業界用語ですねwと揚げ足をとってみます(笑)。これ(モリド)、一度聞いてすごく気になったんですけど、他も含めて、勉強不足の記者さんが業界さんのことばをそのまま流用して定着させちゃってるんじゃないですかね?報道機関の方々の学力不足が原因のような気が。

 「もりど」という音を聞いたとき、私も一瞬「?」と思いました。「もりつち」の時には感じられないとまどいでした。

 業界用語と専門用語は、線引きが難しいところもありますが、全く同じでは無いでしょう。

 建築学科の学生が使うような建築関連の辞典に載っているのなら、専門用語と考えてよいのではと思います。
 あいにくそういう辞典は身近にないので確かめられませんが。

  

三友亭主人さん
惟光さん
朝倉山のオニさん

 コメントを頂きましてありがとうございます。まとめてレスで失礼致します。

 ほんと、違和感のある言葉ですね。「胡散臭い世界」というと語弊もありましょうが、でもまあ。(^_^;

 日国も確かに業界用語ですね。略称なので、正式名称と意味が異なるわけではありませんけど。

 専門用語の場合はその語の意味する定義がしっかりとあるのだと思います。そうでないと議論がぐずぐずになってしまいますので。その場合、日常では使わない語形ならば問題ないのでしょうが、同じ語形が普通に使われていたりする場合、あえてそれとは読み方を変えることがありそうですね。「もりど」と「もりつち」との関係はそういう例かもしれませんね。

 結論1:新聞記者も金田一氏も考えが足りない。

 結論2:業界も行政も新聞社も、もっと国文学科の卒業生を採用しよう。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「盛り土」の読みについて:

« 『日本地理初歩』(明治26年) | トップページ | 興福寺・春日大社の駅弁 »

2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

ウェブページ