「当主」という語の意味用法
当ブログを開設以来、HPの更新がおろそかになっています。(^_^;
それでも、HPをご覧くださっている方がいらっしゃるのはありがたいことです。先日、HPの「赤穂事件関係年表」をご覧くださった方からメールを頂きました。
年表の1668年の記述に「吉良義央(28歳)、吉良家当主となる」とあるが、「当主」という語は、「現在のあるじ。その家の、今の主人」(三省堂・大辞林)、「当代の戸主。現在のあるじ」(岩波書店・広辞苑)という意味なので、その家の過去の主人という言い方は正しい日本語表記とは言えないと考える、というご指摘でした。
ううむ。「当主」という語は、深く考えずに使用しましたが、ご指摘を受けて考えてみれば、この語は確かに現在の主人という意味ですね。
そういう観点からは、赤穂事件の頃から300年も経って作った年表に「当主」とあるのは不適切にも見えます。
しかし、年表で1668年の項目にそう記述したわけですので、1668年の時点での「当主」という風に理解すれば誤用とも言えないと思います。
たまたま手近で検索し得た資料ですが、新潮文庫の谷崎潤一郎の年譜(三好行雄編)に、
>明治四十年(一九〇七年)二十一歳 六月、北村家の小間使福子との恋愛が当主の忌諱にふれ、同家を出て、九月、一高の朶寮に入寮。これを機として、文学で身を立てる決意を固め、英文科に転じる。
という記述があります。ここでは、明治40年時点における「当主」という意味で使われています。これと同様に考えられるのではないでしょうか。
また、司馬遼太郎の『国盗り物語』に以下のような用例があります。
・ところが、美濃土岐家というのは、当主政頼のときに、血の出るような相続あらそいがあったのである。
・この娘が明智家の亡き当主の遺児とすれば庄九郎がそれを娶った場合、明智一族は庄九郎の意のままになるであろう。庄九郎は、そのことにきめた。
・足利幕府の中期、細川管領家は最大の実力をもち、事実上、天下を動かしていたのだが凡庸な当主が相次ぎ、しだいに勢いがおとろえてくるとともに、その家老の三好氏が勢力をのばしてきた。
これらの例では、過去の当主、亡き当主、歴代の当主という意味で用いられていますので、このあたりも許容かと思います。
赤穂事件年表で「当主」を別の語に置き換えることも考えましたが、「吉良家の主人」というのもちょっと違う気がします。
こういった内容のお返事をして、理解して頂きました。貴重なご指摘をありがたく存じました。
無意識に使っている語の用法が正しいのかどうか、改めて考えてみることは大切ですね。この件、もう少し考えてみたいです。
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>当ブログを開設以来、HPの更新がおろそかになっています
まあ、ブログの方が一日も休みなくのペースで更新ですので、なかなかHPの方にも手が回らないでしょうねえ。
今回の記事を読んでふと自らの胸に手を当てて深く反省いたしました。源さんに限ってそんなことはないでしょうが、私なんぞはおぼつかない内容や、誤字ぐらいは当たり前。それはそれでご愛嬌としても、言葉の使いようが間違っていたら・・・これはまた情けない話ですからねえ。
・・・でも、自信があるんです。きっと幾つか読者のみなさんが、目をつぶってくれているところがあるんだって・・
投稿: 三友亭主人 | 2015年7月19日 (日) 23時13分
三友亭主人さん
私も、どうか分かりません。本人が知らない、気付かないからこその誤りですものね。考えると怖いものがあります。(^_^;
三友亭主人さんのブログには、ちらほらワープロソフトならではの誤変換がありますけど(失礼!(^_^;)、言葉の使い方などは大丈夫と思いますよ。失礼ながら、気になったことはありません。OK牧場です。
投稿: 玉村の源さん | 2015年7月20日 (月) 00時22分