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2014年5月28日 (水)

文火

 昨日アップした記事中の「文火(とろび)」が気になって、少し調べてみました。

 手もとの『広漢和辞典』には「文火」も「武火」も中国の用例が挙がっていました。「文火」は唐詩の例ですから、中国には結構古くからある熟語のようです。

 日本の用例は、東大史料編纂所の古記録、古文書のデータベースでは見つかりませんでした。岩波の古典文学大系にも見つかりませんでした。

 青空文庫では「文火」は3例見つかりましたが、「武火」は見つかりませんでした。

 青空文庫で見つけたのは次の諸例です。

・行燈は箱火鉢の傍に置いてあって、箱火鉢には、文火《ぬるび》に大きな土瓶《どびん》が掛かっている。(森鴎外『ヰタ・セクスアリス』)

・血管の中には血の代わりに文火《とろび》でも流れているのではないかと思うくらい寒気に対して平気だった葉子が、床の中で倉地に足のひどく冷えるのを注意されたりすると不思議に思った。(有島武郎『或る女』)

・蒲焼きもよい。脂肪をあまり好まぬ人には鰻の蒲焼きよりもこの方が舌に合うかも知れぬ。……鯰の肉を入れて時々箸で裏返し、約三十分間ほど強火で炒り、それから酒やその他の材料を入れて蓋をし、一時間ばかり文火《とろび》で煮てから碗に入れてだすのであるが、これはひどく手数がかかる。(佐藤垢石『鯰』)

 これ以上は簡単には進めないかもしれませんが、使用の実態や変遷など、もう少し探究してみたいところです。

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コメント

古事類苑全文データベースで検索をかけてみたら次のような例がひっかりましたよ。

大和本草(飲食の部 乾飯)
文火ニテ緩カニイレバフクレズアシヽ焦レザルホドニ炒ベシ
和漢三才圖會(飲食の部 菓子)
以文火煎レ之、以木篦徐煉半日許
雍州府志(飲食の部 餅)
以文火遠焙之

どれも「とろび」あるいは「ぬるび」と訓んでいい例かと思いますが・・・お役に立ちますやら・・・

さしでがましく思うのですがついでに「武火」も同じデータベースで検索できました。まんなかの鼎左秘録はちょっと{?}ですが、あとは「強火」の意と解して良いように思うのですが、いかがでしょうか?

大和本草(飮食の部 乾飯)

土器ニ入、ツヨキ武火ニテ俄ニ炒レバ脹ルヽヲ爲レ末、、

モチ米ノ乾飯ヲ瓦器ニ入、武火ニテ俄ニイレバフクレテヨシ、ユルキ火ニテ炒レバフクレズ

鼎左秘録(飮食部 料理中)

文武火(すみび)にて半日ばかり煮て、其上醬油を少し入れ、又酢を少し入て、また文武火にて寛く半日ばかり煮るなり


物類品隲(飮食部 沙糖)

釜ニ入テ武火ヲ以テ煎ツメルナリ、汁ヲシボリテ時ヲ經タルハ味不佳、速ニ煎ズベシ、煎ズル内ハ、竹ヲ以テ手ヲ休ズカキマハスベシ、若火力弱ケレバ頑糖トナリテ用ニ中ラズ、武火ヲ用ウベシ

三友亭主人さん

 ありがとうございます! 『古事類苑』は、JAPANナレッジ等で項目が検索できることは知っていましたが、恥ずかしながら全文検索もできることは知りませんでした。(^_^;

 早速ググってみました。全文検索が可能なのは、まだ天部・歳時部・地部・帝王部・稱量部・方技部・飮食部に留まるのですね。でも、検索が可能な部門は、これから先も順次増えて行くようですので、これは楽しみですね。

 「文火」「武火」の検索をしてくださったこととともに、全文データベースの存在を教えて頂いたこと、大変にありがたく存じます。ありがとうございました。

 出典の中の『大和本草』は貝原益軒ですね。日国に載っていた用例の『養生訓』も益軒ですので、日本では益軒あたりが使い始めたのかもしれませんね。

 「武火」の3例目は「文武火」なのでしょうね。「すみび」という訓が付いているところを見ると、特に強火とも弱火とも限定せず(ということは、「強からず弱からず」ということになるのかもしれませんが)、炭火一般を指すのに「文武火」という表記もあったのでしょうかね。

 「弱火」「強火」と書けば済むようなものを、「文火」「武火」と書くのは、一種の文飾のようなものでしょうかね。

 「文火」「武火」ともに用例は決して多くない表記と思いますが、そんな中にあって、あの大正の料理本に「文火(とろび)」が平然と使われているのは不思議なことですね。

 いや、青空文庫が対象としているのは、小説や評論が主ですから、そこにはあまり使われていなくても、料理本のような実用書には結構使われていたとか。

 やはり興味深いです。

 ありがとうございました。

興味深い例をありがとうございます。

日国オンラインで全文検索しても数自体少ないですし、日本の文献では18世紀から19世紀が多いですね。
江戸時代後期に使われ始めた漢語ではないかという気がします。
この時期は近代中国語も含め新しい漢語が白話語彙などでじわじわ増えていた時期ですから、そのようなことも関係があるかもしれません。
訳語としての明治期の漢語よりやや前に入った漢語は、字の組み合わせが中国語的で(やや矛盾した言い方ですね)、あまり定着していないように思いますが、大正時代にこの料理本のように使われていたといのは結構長命かもしれません。
指南書のような分野の中で術語として受け継がれてきた可能性もあるかなあと思いました。

源さんの後輩さん

 なかなか興味深い語ですよね。

 料理や、あるいは薬を煎じるときの火加減ということになると、かなり生活に密着した語ということになりましょうから、昔の文学作品や評論にはあまり用いられず、実用書の中で多用される語ということになりましょうかね。

 「文火」は、唐詩に例のある語のようではありますけど、それはそれとして、清朝あたりの時代から俗語として再使用されるようになったのでしょうかね。

 興味深い語です。

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