「八丈・島ことばかるた」
八丈島に行ってきた友人(『古典基礎語辞典』の仲間です)から「八丈・島ことばかるた」を戴きました。このかるたは八丈島教育委員会発行です。ひとくちに八丈島といっても、地域差があるということで、島内5地域の言葉を対照させています。
八丈島はかつては絶海の孤島で、一番古い日本語を残しているのではないかと言われているそうです。万葉集の東歌とも共通する部分があると聞いたことがあります。
そんなことで、大いに興味を持ち、このかるたをじっくりと見てみました。
絵札は以下のような感じです。
読み札は、おもてには共通語形と八丈島の2地域の語形、うらには八丈島の他の3地域の語形が載っています。
1枚、例を示します。
潮(しお)くみおけを 頭(あたま)にのせて 浜(はま)に行くよ
(三根)うしょくみおけい ささんで はましゃん いこわ
(大賀郷)うしょくみおけー ささんで(ささっで) はまげー いこわ
(樫立)うしょくみおきー つぶりに ささっで はましゃん でろだら
(中之郷)うしょくみおき ささっで はましゃん でろわ
(末吉)うしょくみおきぃ ささんで はましゃん でろわ
各地域共通の「うしょ」は「うしほ」でしょうね。最末尾の「行く」に相当する部分、前の2地域の「いこ」は「ゆく」の方言形、あとの3地域の「でろ」は「でる」の方言形と考えられます。「いこ」も「でろ」も共通語のuが八丈島ではoになっています。
他に共通語のuが八丈島のoと対応する例としては、「夕食」→「ようけ」(「ゆうげ」→「ようけ」)、「くる(来)」→「くろ」がありました。
また、共通語の「赤い」が八丈島では「あかーけ」となっています。これは、「あかき」→「あかけ」でしょうね。共通語のiが八丈島ではeになっています。同様の例には、「いい声」→「よけこえ」という例がありました。これも「よき」→「よけ」で、ともに形容詞の連体形iがeという形に対応しています。
一方、東歌・防人歌でも、畿内の母音uがoに対応する例(特に動詞の連体形において目立つ)として、「こす(越)」→「こそ」(下総)、「はふ(延)」→「はほ」(武蔵、上総)、「ふる(降)」→「ふろ」(上野)、「む」(推量む)→「も」(相模、上野など)、「なむ(助詞)」→「なも」(上野)などが指摘できます。
また、畿内の母音iがeに対応する例(特に形容詞の連体形において目立つ)として「あしき」→「あしけ」(下野)、「うつくしき」→「うつくしけ」(武蔵)、「かなしき」→「かなしけ」(常陸、上野)、「くやしき」→「くやしけ」(下野)などがあります。
確かに、現代八丈島方言と万葉集東歌(特に関東の歌)とには共通する部分がありそうです。
他に、八丈島かるたには、「しただみ」(姫窪貝)、「たこうな」(竹の子。「たかむな」→「たかうな」→「たこうな」)など、古語も結構見られます。
興味深いかるたです。
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さすが,源さんのところには,言語資料がたくさん集まってくるのですね。
しかも,八丈の方言について解説までしている。
すごいですね。
記事を興味深く読ませていただきました。
私としては,かわいい絵札が気に入りました。
投稿: 萩さん | 2013年12月 5日 (木) 23時50分
萩さん
コメントをありがとうございます。
絵札、かわいいですよね。作画は菊池泰子さんという方です。地元の方でしょうかね。
5地域の言葉は、それぞれその地域の方が監修に当たったとのことです。
書き忘れましたが、発行は昨年とのことで、新しいかるたです。
投稿: 玉村の源さん | 2013年12月 6日 (金) 00時09分